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◆SPIT MEさんからのご投稿
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                                遊戯の終り PART2-1

誰もいなくなった教室、つい今したがたまで生き恥を晒されていた教室で、勝弘は肩を震わせ泣き咽びながら思い悩み、堂々巡りを繰り返していた。ひ、酷いよ真希、あんなに、あんなに苛めるなんて・・・幾らなんでも・・・ち、くしょう・・・唾を吐き掛け勝ち誇り顔を踏み躙った美貌が脳裏に焼き付いている。
その鋭い視線に火のような言葉に、射竦められ屈従した自分の姿がどうやっても消せない。教室のど真ん中で、クラス中のみんなが見ている前で唾を吐き掛けられくつをなめさせられ、公開で辱められたのだ。全身を恥辱の火、じくじくと燻ぶり何時までも消えない火にゆっくりと炙り焼きにされている。
う、ううう・・・ヒック・・・鼻を啜った瞬間、ツンとした金属質の微かな臭いが鼻を襲った。
つ、唾の・・・臭い、真希の唾の臭い・・・顔中に履き掛けられ靴底で擦り込まれた唾が、ゆっくりと乾きつつあった。蒸発したのか、顔に浸み込んだのかも分からない。顔一面に、乾いた唾で薄い膜を張られたようだ。パリパリと強張ったような感じがする。息をするたびに、真希の唾の臭いがする。顔を洗っちゃ駄目。今日一日、私の唾の臭いと一緒に過ごしなさい。女の子の唾の臭い。生々しい心の傷に新たな塩を絶え間なく擦り込む唾の臭い。そして真希の残酷な命令を、忠実に実行している情けない自分。だが勝弘を責め苛んでいるのは、唾の臭いだけではない。どうやって掃除したらいいか、分っているわね。
真希の最後の言葉が耳にこびりついて離れない。
 ち、くしょう・・・教室中に散らばった唾を掃除しておけ、だなんて・・・自分が吐き掛けたくせに・・・自分の顔めがけて吐き掛けられた唾を、自分を辱め責め苛んだ女の子の唾を掃除する、屈辱の極みだ。だが逆らえない。
いやだいやだと文句を言いながらも、自分が掃除してしまうことだけは、誰よりも勝弘自身が一番よく分かっている。やればいいんでしょ、やれば。だけど・・・掃除の仕方が問題だった。教室の片隅にある、掃除用具を見る。モップもある。モップで拭けば簡単なこと、直ぐ済む。だけど・・・どうやって掃除したらいいか、分っているわね。真希の意に適っているだろうか。頭を掻き毟る、何本もの毛が抜け落ちる。
なんで、真希のご機嫌を取らなくちゃいけないの!?だけど・・・だけど・・・目の前の床を見る。最後に吐き掛けられた唾が顔から滴り落ち、溜まっている。未だ泡が残っている唾の塊まである。顔から滴った唾の糸のいくつかは合体し、小さな池、唾の池のようになっている。
美しい真希、気高い真希、優等生の真希。クラス全員の真希像は、勝弘にだけは違う。意地悪な真希、冷酷な真希、残酷な真希。そして勝弘が思い描く真希の命令は疑う余地もなく、こうだった。跪いて私の唾を、一滴残らず舐め清めなさい。


や、やだ!そんな、こと・・・ふ、拭いちゃおう、今すぐモップ持ってきて拭いちゃおう。み、見てない誰も、見てないんだから今のうちに・・・だが体が動かない。立とう動こう、幾らそう頭で考えても虚しく言葉が空回りするだけ、勝弘の手も足もプルプルと力なく震えるだけだ。
駄目・・・出来・・・無い…ついに勝弘はがっくりと力なく頭を落とした。真希には・・・逆らえ・・・ない・・・逆らう?真希は何も言っていない。
掃除しなさい、どうやって掃除したらいいか、分っているわね。そう言っただけだ。だけど・・・真希が思ってるのと違うことしたら・・・また苛められる・・・唾、吐き掛けられる・・・唾を、みんなの見ている前で唾を吐き掛けられる。それだけは、それだけはもう絶対に嫌だった。そ、それ位なら、あんな目に遭わされる位なら・・・未だこの方が・・・誰にも気にもされず見られもしない中、一人勝手に真希に屈服した勝弘の貧弱な細い両手から、力が抜けて行く。顔が床へと近づいていく。
床にできた小さな池、真希の唾池へと顔を近づけて行く。もうほんの目と鼻の先に唾池がある。


ワナワナと震えながら舌を突き出し、唾池へと伸ばす。
あ、あああ、あああああ・・・ピチョッ、遂に舌の先が真希の唾に触れた。床に滴り冷めきった唾、冷たい液体の感触。思わず舌を引っ込めてしまう。まじまじと唾池を見る。床に広がる小さな池は、全く減っていない。汚辱を吐き気を堪えながら、意を決して2回、3回と舐める。ピチャペチャ、床に舌が触れる。固いヒンヤリした感触。床を舐める、真希も唯花もそして自分も、クラスみんなが歩き回っている床を舐めている。
それだけでも十二分に屈辱だが、今はそれすら問題ではない。
どう?顔を持ち上げ見下ろす。あああ、駄目、全然減ってない・・・舐め清めたつもりが、唾池を周りに広げただけで全然減っていない。却って床を汚してしまったようなものだ。うぐうううっく、しょう・・・こうするしか、ないのかよ・・・呪いの言葉を吐きながら、勝弘は真希の唾に口を近づける。真希が吐き掛けた唾、自分の顔を汚し、床に垂れた唾に口付けする。ズッ、ジュルウッ・・・息を吸い込み真希の唾を吸い上げる。少しずつ、少しずつ真希の唾が口の中に吸い取られる。ウグウッ、エグウウウッッッ・・・吐き気が込み上げる。
女の子の唾を吸い取っている。自分の顔に唾を吐き掛け辱めた女の子の唾を吸い取っている。悪い夢のような現実。誰もいない教室で、自分の意思で、惰弱さで繰り広げている痴態。涙が出る程惨めな行為に、涙が溢れ出るのを抑えられない。


ヒッヒック・・・フエエエエエッ・・・泣きながら真希の唾を吸い取り続ける。あらかた吸い取ったところで、再度床を舐め清める。レロエロレロ・・夢遊病患者のように、呆けた顔で舌を動かし続ける。床に残る真希の唾の残骸を舐め清める。
こ、ここは・・・きれいになった・・・次は・・・床に這いつくばったまま、次の唾を探す。すぐ50センチ先に、1メートル先に、あちこちに真希の唾が待ち受けている。あれを・・・全部、舐め清めるの・・・気が遠くなるほどの絶望。現実感を失うほどの屈辱悪夢に必死で耐えながら、真希の唾を舐め清め続ける。みんなが自分が歩いている床を舐めているだけでも、気が狂うそうな程の屈辱だ。
ましてや自分を屈辱地獄に突き落とし晒し者にした、憎い憎い真希の唾を舐めているのだ。考えたくない考えない、絶対何も考えたくない、考えたら耐えられない・・・必死で頭を振りながら、惨めな床掃除を続けた。チュバッ、チュウッチュチユッ・・・ピチャペチャレロ・・・誰もいない教室に、卑しい音が響き続ける。
嫌というほど唾を吐き掛けられた教壇を、30分以上かかって漸く舐め清め終えた。
次は・・・机と机の間を見て絶望に項垂れてしまう。通路のあちこちに、真希の唾が飛び散っている。真希に唾を吐き掛けられながら教室中を追い回された、辛い辛い心の生傷が塩を擦り込まれたかのようにジクジク傷む。
これを・・・全部、舐めるのか・・・目の前が真っ暗になりそうだ。必死で頭を振り床を見つめる。かかか、考えるな考えるな・・・舐める、兎に角・・・きれいに・・・するんだ・・・それだけ、それだけを・・・かんがえ・・・よう・・・全力を振り絞り頭の中を空っぽにし、一番手近な唾に舌を伸ばし舐め取る。ペチャピチャ、少し先にも唾が見える。首を伸ばして舐め取る。
直ぐ先にも別の唾が・・・通路のあちこちに真希の唾が散らばっている。一つ一つの唾は池になる程の大きさではないが、追い立てられながら吐き掛けられたため、そこかしこに細かい唾が散らばっている。勝弘はいつしか、体を起こすことすらしなくなっていた。一々立ち上がるのも面倒、等と考える気力すらない。四つん這いのまま真希の唾から唾へと這いずり回り、床を舐め続けていた。
惨め、惨め、惨め。誰もいないのが唯一の救いだ。
舌と手足だけを動かす、何の感情もない機械のように感情を押し殺しながら、真希の唾の残骸を舐め続けた。廊下に響く靴音も、教室のドアが開かれたことにも気付かずに。
「何、してるのよ?」
不意に降り注いだ声に、電流を流されたようにビクッと勝弘の体が震える。反射的に床から視線を上げると、白い上履きが、次いで紺色のハイソックスを履いた美しい脚線が目に飛び込んできた。
ま、ままま、さか・・・恐怖に怯えながら盗み見るように仰ぎ見た視線の彼方に、呆れ顔で見下ろす真希がいた。
「何、してるのよ一体?」
苛立たしげに問い質しながら、真希は勝弘の視線の先を追った。そこにあるものは唾、紛れもない、自分が吐き掛けた唾の残骸だった。
「もしかして勝弘、そうやって床に這いつくばってさ、私が吐き掛けた唾をずっと舐め回ってたの?・・・バッカじゃないの?」
ハアッ、両手を広げ溜め息をつき、心底呆れ顔で床に這いつくばる勝弘を見下ろした。ちちち、くしょう、バッカじゃないの?自分が、自分がやらせたんじゃないか・・・なけなしのプライドを掻き立て、消え入りそうな声で必死で抗議する。
「だ、だだだ、って・・・言ったの、真希じゃない・・・きれいに・・・しろって・・・」
真希の美貌がすうっと冷たくなっていく。
「私が言ったから?そうよ、確かに言ったわ、きれいにしなさい、どうすれば掃除したらいいか、分かるよね、て。で、勝弘の出した答えがこれ、て言う訳なのね?」
真希の眼光が射るように鋭くなっていく。う、あああ・・・ダ、ダメ、言わなくちゃ、ちゃんと言わなくちゃ・・・
「だ、だって・・・こ、こうしろ、て言われたんだと・・・思うじゃない・・・あんな、あんな酷いこと・・・つ、唾かけられて、靴舐めさせられたりまで・・・した挙句に、ああ言われたんだよ・・・こうしろ、てことだと・・・思うじゃない・・・」
はっ!?何言ってるのよ一体?真希はじっと勝弘を見下ろしている。何こいつ、私に命じられたから仕方ない?誰がそんなこと言ったのよ、ふざけるんじゃないわよ!私が吐き掛けた唾を、教室の隅々まできれいにモップとか雑巾で拭いときなさい、程度のことに決まってるじゃない。
誰もいない教室で這いつくばって床を舐め回す?余りの嫌悪感に真希は眉を顰める。気色悪いったらありゃしない、しかもそれを私のせいにしようだなんて!
呆れ果てたように頭を振っている真希の美貌が、夜叉の如く新たな怒りに包まれていく。怒りの魔神に変貌していく大魔神のようだ。勝弘の背筋を電流に打たれたかのような悪寒が走る。
「勝弘・・・で、何?私に謝ってでも貰いたい訳?ご免ね、やりすぎちゃったわね、とかさ。」
押し殺した声で、静かに真希が尋ねる。そ、そうだよ、謝ってよ・・・だがその一言は到底言えなかった。仰ぎ見る真希の美貌は、先程リンチされた時と同じように、いやあの時以上の激しい怒りに燃え上がっていた。
「バーカ、誰が謝ってなんかやるもんですか!」
言い放ちながら紅蓮の美瞳で見据えた真希は、勝弘の惰弱な今にも泣き出しそうな顔と目が合った瞬間、全身に鳥肌が立つ程の嫌悪感に包まれた。
変態のくせに、私にリンチされて泣き咽んでいたくせに・・・リンチした私の唾を舐め回しているような意気地無しのくせに・・・私に恨み言?謝って欲しい?何で・・・そこまで腐れるのよ・・・!余りの嫌悪感に口の中が酸っぱく感じる程だ。許せない・・・こんなクズ!ジュウウ、と生唾が口中から湧き出てくる。自分の口が体が、勝弘に唾を吐き掛けることを要求しているようだ。大きく息を吸った。
「この・・・クズ!恥を知りなさいよ、ペッ!」
頭の天辺から爪先まで、全身に充満した軽蔑を纏めて叩きつけるかのように、思いっ切り唾を吐き掛けた。ピチャッ、アヒイッ!
「このクズ!ペッ!恥知らず!ベッ!死ね、死ね、死んじゃいなさいよ!ペッ!私に、女の子に唾を吐き掛けられているのよ、ペッ!恥、て言う言葉を少しでも知っているなら・・・今すぐこの場で舌を噛んで死んじゃいなさいよ、ペッ!」
憎悪と軽蔑に美瞳を燃え上がらせながら、真希は何度も何度も唾を吐き掛けた。
先程の唾とは意味合いが全く違っていた。先程の唾は、変態勝弘に屈辱を味合わせるために、最も有効な責め手として考えた、拷問・リンチとしての唾だった。だが今は、何かを考える余裕など全く無かった。
体の奥底から心の底から湧き上がってくる軽蔑侮蔑嫌悪が、自分でも抑えようがない程の激しさで渦を巻き爆発していた。唾を吐き掛けずにはいられない、という激情に全身を支配されていた。
何度唾を吐き掛けても吐き掛けても、激情は一向におさまらない。喜び悲しみ感動絶望・・・今までの人生で味わった感情全ての中でも、ここまで激しい感情を掻き立てられたことはなかった。どうしてここまで卑しくなれるのよ!?
背筋の悪寒が止まらない。理解不能な迄の勝弘の穢さは、真希には理解不能だった。怒り憎しみだけではない、自分の理性ではどうにも理解不能な化物へのおぞましさが、生理的な水準に達した拒絶を真希の全身から絞り出す。全ての激情が真希をたった一つの行動へと駆り立てていた。唾を吐き掛けること。
勝弘の顔面に唾を叩きつけること。それ以外、何も考えられない。勝弘は呆けたように、意志の力など何も感じられない無気力な表情で真希を見上げている。それが一層おぞましい。
こいつめ・・・こいつめこいつめこいつめ!未だ分からないの?こんなにされても、未だ分からないの?薄汚い化物め!ペッ!ベッ!ペッ!全身全霊の力を込めて唾を吐き掛け続ける。唾を吐き掛けずにはいられなかった。
自分の目の前で、哀れな被害者面をしている醜い化物を、唾で屈服させずにはいられなかった。そうしないと、余りのおぞましさに自分自身の自我まで崩壊してしまいそうだった。

な、何を・・・するの!も、もう、もう終わったはずじゃない!もう、リンチは終り、て言ったじゃない、唯花だって、もう赦す、ていったじゃない!そ、それなのに・・・ま、またつ、唾、唾を吐き掛けるなんて・・・ひ、酷い!勝弘の惰弱な精神にも、悔しさと微かな怒りが込み上がる。
ち、くしょう・・・呆けたように真希を見上げる顔が、微かに赤みがかる。あ、あんなに・・・あんなに酷いこと、したじゃない・・・みみみ、みんなの前で、唾吐き掛けて、く、靴まで舐めさせて・・・ひ、酷過ぎること、したじゃない・・・もう、もう十分だろ・・・ゆ、唯花の、唯花のマウスピース舐めた罰なら、じゅ、十分過ぎるよおおお・・・こ、れ・・・唯の・・・リンチだよ・・・苛め、だよ・・・リンチ?苛め?頭に浮かんだ自分の言葉に、勝弘は思わず引っ掛かる。ぼ、僕いま・・・女の子にリンチされてるの?!女の子に、苛められてるの!?今ここには誰もいない。自分と真希以外、誰もいない。自分が真希に襲いかかっても、止める者など誰もいない。なのに・・・なのに真希は今、僕のことをリンチしている・・・ぼぼぼ、僕には・・・何もできないと思って、苛めている・・・ちちちちち、畜生おおお!屈辱に顔を歪めギリギリと歯を噛み締めた。ばばば、バカにするなあああ、ぼ、ぼくだって、ぼくだって、お、男なんだぞおおお、ここ、こんなこんなこんなこと・・・ゆゆゆ、ゆるさないぞおおお・・・
立ち上がり真希を押さえつけやめさせてやる、唾なんかもう吐かせない・・・勝弘の頭の中では、雄々しく立ち上がって真希に立ち向かう自分がいた。だが現実は・・・抗議の声を上げようと顔を上げた瞬間、真希の鋭い視線を浴びせられた瞬間、勝弘のちっぽけな決意など一瞬にして踏み潰されてしまった。
真っ向から睨み据える真希の目力は圧倒的だった。大きな切れ長の瞳、黒目がちの美瞳を爛々と輝かせ、勝弘の抗議の眼差しになど全く動じることなく、堂々と見下ろしていた。
強烈な圧力、圧倒的な目力。その目には、苛めを楽しむ冷笑などどこにも無い。あるのは軽蔑と怒りだけだった。心底怒った美人の形相ほど恐ろしいものが無いことを、生まれて初めて知った。全身が恐怖に竦み、震え上がりそうだ。
何も言うことなどできない。言葉など発する余地などどこにもない。余りの圧力に、息をすることすら憚られるほどだ。
キッと美唇を噛み締め一瞬、真希の唾責めが止まった。この瞬間までこの場を支配していた、唾を吐き出す音が止まり、重い沈黙がこの場を支配する。無言で睨み据える真希の圧力に、勝弘は押し潰されそうだ。

た、たたたたつん・・・だ、め、たて、ない・・・真希の眼力に圧倒され、勝弘の足は全く力が入らない。
ひいいい・・・恐怖に全身を鷲掴みにされているようだ。ににに、逃げたい、真希の視線から逃げたい・・・腰がピクピク震えてくるのを必死で堪える。
逃げたい、真希の目力に負け、この場から惨めに逃げ出したい。
だがそれが何を意味するかだけは分かっていた。視線をそらす、俯いてしまう。それは自分が真希に無条件降伏すること、真希に屈服すること。唾を吐き掛けるという、人間が人間に与え得る最大の侮辱をもって自分を辱めた真希に、負けを認めてしまうこと。それだけは、それだけはどうしても嫌だった。
なけなしの勇気を振り絞り必死で堪える。だが抗議の声を上げることなど、ましてや真希に手をあげることなど逆立ちしてもできない。涙を堪えながら顔をあげ、真希の目力に耐えるのが精一杯の抵抗だった。せめて真希の唾に耐えてやる、そんな立派な意思があったわけではない。せめて下だけは向きたくない・・・目だけは反らしたくない・・・反抗するでもなく逃げ出すでもなく、唾の前に顔を晒し続けるだけの中途半端な抵抗、それは真希の怒りに火を注ぐだけだった。
何よその目・・・文句でもある、て言うの!?
生きているだけでも穢らわしいウジ虫の分際で、その目は何よ!ピクピク、と右手が震える。
引っ叩いてやろうかしら・・・蹴りのめしてやろうかしら、こんな奴!だけど・・・こんな奴、触るのも穢らわしい!口の中が耐え切れない程酸っぱくなってきた。これでも・・・喰らえ!ベッ!思いっ切り唾を吐き掛けた。
こいつめ・・・こいつめ、こいつめ、こいつめ!ペッ!ベッ!ペッ!・・・ベッ!何度も何度も何度も、真希は全力で唾を吐き掛け続けた。何よその顔、何か文句でもあるの、悔しいとでも言うの?ふざけるんじゃないわよ!ペッ!ベッ!ペッ!勝弘の顔面に情け容赦なく、真希の唾が炸裂する。余りに強く吐き掛けるために、顔の上で唾がピチャピチャとしぶきを上げている。
真希と勝弘の間にあるものは、唾だけだった。真希の怒りと勝弘の屈辱、全てが真希の唾に収斂していた。触るのも穢らわしいと唾を吐き掛ける真希、声を上げることもできずに耐え忍ぶ勝弘。
責める者と責められる者のせめぎあい。唾で屈服させようとする真希と、唾に打ちのめされまいと堪える勝弘がせめぎあう。だが真希と勝弘の意地の張り合いは、決して対等のものなどではなかった
真希は仁王立ちになり勝弘を見下ろしている。
勝弘は跪いて真希を仰ぎ見ている。真希は怒りに満ちた形相で睨み据え、勝弘は惨めに怯え切っている。そして真希は唾を吐き掛けて責め立て、勝弘は唾を吐き掛けられて辱められている。
強き者・責める者は真希。弱き者・責められる者は勝弘。怒りに身を任せて責め続ける真希だけではない。未だ辛うじて、完全には屈服していないとはいえ、勝弘も無意識の内に自分の立場を、責め立てられる者の立場を受け入れてしまっていた
。責める真希と責められる勝弘、この立場は永久に変わらない。最早対等のクラスメートでもなんでもない。
互いの間に厳然たる身分の差が生まれてしまったこと、その実感だけは二人とも共有していた。
涙を零しながらも、必死で唇を噛み締め何とか泣き出すまいと、勝弘は必死で堪えた。つい先ほど、クラスメート全員が見守る中で嫌というほど吐き掛けられ辱められた真希の唾。
生まれてこの方、唾を吐き掛けられたことなど一度もない。ましてや女の子に、それも真希のような優等生に唾を吐き掛けられるなど、想像したことすらなかった。
そして何より恐ろしいのは、真希の眼差しだった。真正面から見下ろす真希の眼差しは、怒りと軽蔑と嫌悪とだけに純粋に研ぎ澄まされ燃え上がっていた。溢れるほどの激情を、圧倒的な目力に変えて真正面から射ち込んでいた。
これ程までの怒りを、軽蔑を、嫌悪を浴びせられたことは、未だかつて一度もない。
これ程までに嫌われたことなど、一度もない。
この十分の一程度嫌われただけでも、顔も見たくない、とばかりにプイとそっぽを向かれてしまうだろう。
だが真希は今・・・怒りを軽蔑を嫌悪を、真正面から叩きつけていた。薄汚い奴・・・大嫌い・・・今すぐ死になさいよ・・・それは憎悪のレベルにまで達している激しさだった。
憎悪を女の子から叩き付けられている。それも真希に。クラス一の美少女に。
超の字がつく優等生に。自分が心底憎まれ嫌われている、それを面と向かって、真正面から正々堂々と宣告される。
恐ろしい程の屈辱であると同時に、勝弘は真希の気迫に完全に飲み込まれていた。今すぐこの場にひれ伏し、赦しを乞いたかった。お、願いだよお、そ、そんな目で・・・ぼくを・・・み、ないで・・・

最早勝弘の精神は真希の目力に焼き尽くされ、尻尾を丸めてキャンキャン泣き、腹を曝け出して屈服を訴える負け犬同然だった。その真希に真正面から睨み据えられながら吐き掛けられる唾、それは勝弘の精神にとって何より恐ろしい攻撃、というより拷問そのものだった。真希に吐き掛けられる唾の一撃一撃が、勝弘にとって全力で鞭打たれている程の苦痛だった。
いかに屈辱の唾とはいえ、人畜無害の液体、それもほんの数滴ずつの液体を吐き掛けられているだけなのに、硫酸にも勝る強力な溶解液を吐き掛けられているかのように、顔中が熱く燃えるように痛い。痛いだけではない、真希の唾に顔も精神も何もかも、微かに残っていたプライドらしきものも全て、ドロドロに溶かされてしまっているかのようだ。
イダイ・・・アジュイ・・・比喩でも何でもなく、勝弘は真希の唾により、耐えることなどできない程の苦痛に責め苛まれていた。真希の唾は一撃ごとに、勝弘の惰弱な精神に残された僅かな心的防御を、確実に打ち砕き溶かし崩し、確実に責め落としていった。

何度唾を吐き掛けられただろうか、勝弘の口がワナワナと震えている。首がガクガクと今にも落ちそうに震えている。残酷な真希の唾に、勝弘の全ての心的防御は完膚なきまでに打ち砕かれてしまっていた。もう限界だった。
欠片ほどのプライドもちっぽけな怒りも、全てが真希の唾に蹂躙し尽くされていた。や、やべでよ・・・もう・・・ダメ・・・ねがい、お願いだよおおお、唾は、もう・・唾は・・・ゆるじで・・・怒りなどもうとっくに真希の唾に打ち砕かれてしまっていた。
もう、唾を吐き掛け責め立てる真希に、哀願し赦しを乞う、哀れな虫けらに堕とされていた。最後の心的防御すら打ち破られてしまっていた。顔だけは未だ上を向いている。だが首の筋肉は真希の唾に、既に全ての力を焼き尽くされもう何の力も入っていない。
単なる惰性で上を向いているだけに過ぎない。そして今、最期の止めの唾が、一際大きな唾の塊が鼻頭に、叩きつけられた。あ、あああ・・・ううううう・・・勝弘は、精根尽き果て全ての抵抗力を失い、唾塗れの汚い顔をガックリと項垂れた。
せめてもの意地、顔をあげ真希を仰ぎ見ることさえ、もう出来なかった。
床についた手からすら力が抜けてしまい、正座したまま顔を床に埋めるかのように崩れ落ちた。顔中から、真希の唾が滴り落ちている。一発のビンタも一発の蹴りも受けた訳ではない。
唾で、唾だけで、これ程までに、呻き声すら上げられない程に打ちのめされ、屈服させられてしまったのだ。アウ、ウウウ・・・啜り泣きながら勝弘は半ば無意識に呟いた。
ご、めんなさい・・・ごめん、なさい・・・自分の口から洩れた言葉に耳を疑う。自分の姿勢に気付く。両手を折り曲げ床にひれ伏し額を点けている。土下座。真希の足元に土下座しているかのようだった。
ぼ、ぼく・・・土下座・・・真希の、真希の足元に・・・土下座、している・・・土下座だけではない。真希に、真希に・・・謝っている・・・唾を吐き掛け自分を苛めている真希に・・・謝れ、なんて言われてもいないのに・・・自分の姿勢自分の声、自分が何をしているのか、誰に言われずとも、自分自身が一番良く分かっていた。
真希の足元に土下座し赦しを乞うている。そう、自分は負けてしまったのだ。真希に屈服してしまったのだ、ということを。
凄まじい屈辱だった。これほどまでの敗北を味わったことは、あらゆることを通じて生まれてこの方、間違いなく一度もなかった。ま、負けた・・・真希に・・・負けた・・・涙が零れてくる、溢れてくるのを止めようがない。
お、女の子に・・・泣かされた・・・つ、唾で・・・唾で、唾だけで、屈服、させられてしまった・・・修羅の形相で唾を吐き掛ける真希の美貌が、間断なく唾を吐き掛けるふっくらとした真希の美唇が、脳裏を支配する。
自分は・・・真希に完全に屈服してしまった・・・真希に泣かされて・・・こうやって土下座している・・・絶望的な迄の敗北感だった。もう・・・真希には絶対逆らえない・・・悔しさすら、もう出てこない。完璧な敗北は心地良い、など全くの嘘だった。
あるのは唯々、惨めさと絶望だけだった。もう一生、真希には・・・逆らえない・・・顔を見ることさえ・・・怖い・・・そして新たな恐怖を認識してしまった。真希がこのまま自分を放っておいてくれる筈がないことを。そしてこれから先、どんな目にあわされようとも、自分が絶対に逆らうことなどできないことを。
怖い・・・な、何を・・・されるの・・・どういう・・・目に、遭わされるの・・・その恐怖は、紛れもない現実、真希がこれから味合わせようとしている現実だった。
うう、あうううう・・・うう、えええんんん・・・屈辱と絶望と恐怖に肩を震わせ、ボロボロ涙を零して泣き出す勝弘を、真希は冷たく見下ろしていた。ハア、ハアア、ハアアアアッ!怒りの余り、吐く息すら荒い。
自分の足元に土下座している勝弘を、唾で打ちのめし人格崩壊させてやった惨めなクラスメートを見ても、哀れとも何とも思わなかった。
達成感はある。大嫌いな勝弘を屈服させてやった、ウジ虫を泣かせてやった達成感はある。いい気味!
だが快感など全く感じていない。憎悪の獄炎はより一層激しく燃え上がっていた。だいっきらい、勝弘、あんたなんか・・・大嫌い!私を、こんなに嫌な気分にしてこんなに怒らせて、一体どういうつもりなのよ!
赦さない、絶対に赦さないから!リンチしてやる、苛めてやる・・・一生忘れられない位、酷い目に遭わせてやる。
唯花に変態した罰じゃない、私に、この私にこんなに嫌な思いをさせた報いを与えてやる。覚悟しなさいよ。キッと美唇を噛み締め、宣告した。私に?二度三度、深呼吸する。そうよ、ここから先は私のために、私に嫌な思いさせた報いに・・・リンチしてやる。
制裁のためでもなく誰のためでもなく、純粋に自分自身のためにリンチする。今の今まで想像したこことすら無かった自分の決意。だがその決意は真希にとって、何より自然に受け入れられる決意だった。
何の躊躇もなく何の興奮もなく、水を飲むように空気を吸うように、極く当然のこととして宣告した。「勝弘・・・絶対に赦さないからね、思い知らせてやる・・・リンチ、再開よ。」
スッと右足を上げ、何の躊躇もなく土下座する勝弘の頭に下ろす。全体重を右足に掛ける。
ううっぐううう・・・呻き声を気にもかけずに、踏み付けた右足を左右に間断なく動かし、踏み躙る。
靴で、土足で他人の頭を、顔を踏み躙っている。今朝起きた時には、そんなことを自分がするなど、想像することすらなかった。だが今はごく当然のこととして踏み躙っている。
何の抵抗も感じない。何の憐れみも感じない。極く当然のこととして、勝弘の頭を踏み躙っている。
土下座して自分に赦しを乞うている勝弘、その哀願を拒絶し頭を床にめり込ませんばかりに、激しく踏み躙っている。
嗜虐心は純粋さを増していく。考えているのは、どうやって苛めてやろうか、どうやって辱めてやろうか、ということだけだ。キッと美唇を噛み締め腕組みして下を見下ろす。白い上履きとその下で蠢く黒い頭を見下ろす。
ジョリッジョリッと靴底に踏み躙られた髪の毛が擦れる音がする。この頭の下、どうなっているのかしら。きっと鼻も口も床にめり込んで、さぞ痛いでしょうね。だがやめる気など毛頭ない、更に体重を掛けて踏み躙る。
ウッアックウウッッッ、痛みと圧迫に耐えかねた勝弘は、顔を横に向けてしまう。
何よ横向いちゃって、痛そうにすれば赦して貰えるとでも思っているの?
足を上げもせずに右足を移動させ、今度は頬を踏み躙り続ける。
自分が吐き掛けた唾を、しっかり擦り込んでやるかのように。勝弘の頬に、自分がつい今しがた吐き掛けた唾が光っている。その唾ごと勝弘の頬を踏み潰しながら、激しい苛立ちに駆られる。
唾がついちゃったじゃない!幾ら私の唾だ、て言ったって、何で私の靴を唾で汚さなくちゃいけないのよ!
傍らの椅子に腰かけようとしたが、ふと手を止めた。さっきと同じようにして舐めさせるなんて、芸がないわね。椅子を教壇の端に上げてから腰を下ろし、悠然と美脚を組む。30センチ程の教壇の上から、床に土下座する勝弘を見下ろす。
唾を吐き掛けた自分の足元に蹲る男。惨めね。フッと美唇が微かに冷笑する。
「勝弘、顔上げなさいよ。」
腕を組み、傲然と命じる。
「勝弘の汚い顔踏んだから、汚れちゃったじゃない。きれいに舐めて掃除してよ、私の靴底を。」
床からのそのそと体を起こした勝弘が、恨めしそうな目で見上げている。
文句あるの?等と聞く気もしない。
「だらしない格好ね、私の靴を舐めるのよ、失礼じゃない、ちゃんと姿勢正しなさいよ!」凛とした声で命じる。目だけは恨めしそうにしながらも、勝弘は言われるがままに正座し、両手で突き出された真希の右足を押し頂いた。
ペロピチャペチャ・・・靴を舐め清める音が微かに響く。責める真希は、自分の靴の更に下にウジ虫の顔を見下ろしている。
責められる勝弘は、突き出された足の遥か上に、女神の美貌を見上げている。強く凛とした視線と弱く怯えた視線が交錯する。何て惨めなの・・・自分の靴を舐めさせながら、真希は嫌悪感で胸がむかむかしてきた。こんな奴、もっともっと酷い目に遭わせてやらなくちゃ、赦せない。こうやって延々と私の靴底舐め続けるだけだなんて・・・こんなんじゃ、さっきやらせたのと同じじゃない。ううん、みんなが見ていない分、勝弘にとっては未だ堪え易いかもしれないわ。
ダメ、これじゃ足りない、こんなんじゃ手緩すぎよ・・・
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集団ツバ吐き
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