陶  酔 その1

作者 namelessさん

 倉田博史は、若い女性社員を自分の机まで呼びつけて、大声で怒鳴り付けた。
「谷崎君、この購入物品のメーカー名が違っているじゃないか!君も入社して、四年だろう。新入社員みたいに、こんな初歩的なミスをされては困るんだよ!」
「…申し訳ありません、課長。直ぐに訂正します」
 呼びつけられた26歳の谷崎杏子は、頭を深々と下げて、泣きそうな声で謝罪した。
「今後は、もっと注意したまえ…会議に行ってくる」
博史は不機嫌な顔で机に書類を放り出し、席を立った。杏子は半べそをかいて書類を手にし、自分の机に戻った。他の社員は、最近不機嫌な博史と目を合わさないように、下を向いて自分の仕事に没頭する振りをした。総務の部屋を出た博史は、むっつりとした表情で会議室に向かった。
35歳の博史は、自分の父親が社長をしている会社の総務課長だった。

彼の父親は一代で大きな会社を興し、一流国立大学出身の優秀な長兄が時流に乗った事業を展開して会社を急成長させ、有名私立大学出身でバイタリティのある次兄が営業・財務関係で辣腕振りを発揮し、会社を更に大きく発展させた。しかし、三男の博史は出来が悪く、一浪して入った偏差値の低い三流私立大学を留年ぎりぎりで何とか卒業出来た、事業方面の才覚もからっきしの出来損ないであり、父親の頭痛の種になっていた。

父親は大学を卒業して就職がどこにも決まらなかった博史を、仕方なく自分の会社で拾ってやり、しばらく総務部門で働かせ、30歳を越えたところで課長のポストを与えたのだった。
馬鹿な子ほど可愛いと言われるように、父親は出来の悪い博史を何かと気遣っていた。それを年の離れた二人の優秀な兄達が快く思っていない事を知っている博史は、重役である兄達と顔を合わせる会議が苦手だった。博史はうんざりした表情で、会議室のドアを開けた。しかし、今の彼が不機嫌なのは、会議のせいだけではなかった。

十日前、博史は取引先への贈答品を買いに、会社近くの有名デパートに出向いた。彼がデパートの一階で受付嬢に贈答品売り場の場所を訊ねていた時、妻の真弓がデパートに入って来た。彼女は清楚な服装に、海外旅行に行くような大きいサイズの黒色キャリーバッグを引っ張っており、夫の博史には気がつかなかったようで、そのままトイレに向かって行った。買い物にでも来たのか…でも、あの大きいバッグは何だ…と博史は首を傾げたが、彼はそのまま上の階に贈答品を選びに行った。
博史がデパートでの用事を済ませて外に出て、会社に戻ろうとした際、何気なくデパートの方を振り返った。その時、真弓がデパートから出て来て、博史は目を剥いた。彼女は清楚で上品な服装から一転して、原色でお水系のケバい服装に高いヒールを履き、派手で大きなアクセサリーを着け、濃い化粧をしてサングラスを掛け、髪型もアップにまとめていた。綺麗ではあったが、どこか下品な印象がした。先程の見覚えのある大きな黒色キャリーバッグを引っ張っていなければ、街で擦れ違っても、自分の妻と気付かない程の変貌振りだった。真弓はタクシーを拾って、どこかに走り去り、博史の頭はすっかり混乱してしまった。
(何だ、あの派手な格好は?同窓会にでも出席するのか…いや、パーティがあるにしても、真弓は普段、あんな派手で下品な感じの服装はしない。まるで変装のようだ。すると…不倫か?)
 博史と29歳の真弓が結婚したのは、半年程前になる。博史の父が、大口の取引先の娘である真弓との見合いをセッティングしたのだ。博史は見合いの席で美しい真弓に一目惚れし、結婚までトントン拍子に進んだ。出来の悪い博史が無事に結婚出来た事で、父親は大喜びし、郊外に一戸建て住宅を用意した。しかし、間もなく博史は結婚生活に若干の物足りなさを感じる事となった。

真弓は家事をきちんとこなすのだが、今ひとつ愛情が感じられず、まるで優秀な家政婦みたいだった。夜の営みも、いわゆるマグロと言われるような、全くの受け身の淡泊なもので、味気なさを感じていた。それでも博史は真弓に惚れていたし、さえない自分が美しくスタイルも良い彼女と結婚出来たのを幸運だと思って いた。その真弓が、不倫しているかもしれない…博史は不安で胸騒ぎがした。博史は普段飲み歩いて、大抵帰宅が遅いのだが、その日は早めに家に帰り、出迎えた真弓に質問した。
「真弓、今日はどこかに出掛けたのかい?」
「…ずっと家に居たわよ。昼過ぎに、近所のスーパーへ買い物には行ったけど…それがどうかしたの?」
 真弓から不思議そうに訊き返され、博史は慌てて答えた。
「いや、何でもない。会社の近くで真弓を見かけたような気がしてね…先に、風呂にするよ」
 博史は浴槽に浸かり、考え込んだ。
(真弓は嘘をついている…やはり、浮気をしているのか…)
 その翌日、博史は会社からの帰りに、以前知人から聞いていた、腕が良く信用の出来ると評判の探偵社が入っている雑居ビルに立ち寄った。

 会議を終えた博史が自分の席に戻ると、机の上に「親展」と記された大きな封筒が置かれていた。椅子に腰掛けて封筒の社名を確認すると、彼が依頼した探偵社のものだった。博史は一週間の予定で真弓の素行調査を依頼し、調査費用として80万円もの大金を振り込んでいた。彼は急いで封筒を開け、些か震える手で中の調査報告書を取り出した。報告書をざっと一読した博史は、驚きで目を剥き、思わず短い呻き声を漏らした。課員達が不思議そうな顔で自分の方に向いたので、彼は慌てて手を振り、
「あっ、いや、何でもない…自分の業務に集中してくれ」
と言って誤魔化した。
 報告書に記されている内容は、博史が予想した不倫のレベルを遥かに超えた内容だった。真弓は昼営業のデリヘル嬢をしていたのだ。それもSM専門のデリヘルで、何と女王様役で働いていた。報告書によると、凄く人気があり、決まった顧客が何人もいる予約待ちの状態で、デリヘルだけではなく、昼間に営業しているハプニングバーのSMショーにも出演していた。
 博史は震える手で、報告書に同封されていた数枚の写真とDVDを封筒から取り出した。彼は食い入るように、写真を見つめた。写真には、妖艶なボンデージ姿の真弓が男達を鞭打ち、ブーツで踏みにじり、尻で男の顔面を圧迫する様子が写されていた。周囲に聞こえるのではないかと心配になるほど、博史の心臓の鼓動が激しく高鳴った。
課員達の方からは自分のパソコン画面が見えないのを幸い、博史は同封のDVDをパソコンにセットし、音声をオフにして再生した。

パソコン画面には、おそらくハプニングバーのSMショーと思える舞台上で、真弓が吊された男を鞭打つ動画が映し出された。隠し撮りのためか画質は些か悪かったが、露出した豊かな乳房を揺らせながら容赦なく男を鞭打つ真弓の姿は壮絶で、博史はその迫力に圧倒された。
鞭打ちを止めた真弓は、吊されていた男を舞台上に降ろし、四つん這いにさせ、その背に跨った。彼女は鞭を振るい、男を人間馬として舞台を何周も這い回らせた。疲れた男が舞台上でうずくまると、真弓は男の背から立ち上がり、太腿まであるロングブーツで男を蹴りつけて、仰向けにさせた。 彼女は仰向けになった男の顔に座り、黒色の薄く透けたパンティに包まれた豊満な尻で顔面を圧迫した。

真弓は尻を大きく揺らせて男の顔面を押し潰し、博史には男の呻き声が聞こえるような気がした。真弓は一旦立ち上がると、黒色のパンティを脱ぎ捨て、再度男の顔面にしゃがみ込んだ。彼女が何か命令したようで、男は大きく口を開いた。その瞬間、真弓の股間から水流が噴出し、男の口に直撃した。男は喉を上下させ、彼女の尿を必死に飲んでいるようだった。

 博史は目を見開いてパソコン画面を凝視していたが、部下の谷崎杏子が書類を手にして近づいて来たのに気づき、慌ててパソコン画面を切り替え、調査報告書と写真を封筒の中に入れた。
「課長、先程の書類を訂正しました…どうかなさったんですか?顔色が悪いようですけど…」

 博史は差し出された書類を受け取り、少しうわずった声で答えた。

「いや、何でもない…ちょっとトイレに行ってくる」
 博史は封筒を引き出しに入れると、席を立った。真っ直ぐトイレに向かった博史は、個室に入ると鍵を掛けて洋式便器に腰掛け、頭を抱えて前のめりになった。脳裏には、ボンデージ姿の真弓が男に鞭を振るうシーンが焼き付いていた。
(あの清楚な真弓が、SMの女王様をしてたなんて…これから、どうすればいいんだ?)
 博史は苦悩したが、股間にきつい痛みを覚えていた。今までない程に硬くなった股間のものが、スラックスに押さえられていたのだ。彼は無意識にファスナーを開くと、猛り狂った股間のものを引っ張り出し、右手で屹立したものを握る。
(ああっ…真弓…)
 博史の意識は、妖艶なボンデージ姿の真弓で占められていた。知らず、彼の右手が極限まで硬くなった股間のものをしごき始めた。彼の頭の中で、真弓に鞭打たれ、馬にされ、尻で顔面を押し潰され、人間便器にされた男の顔が、自分の顔にすり替わった。その瞬間、彼の屹立したものから、勢いよく白濁液が噴出した。
 射精した博史は体の力が抜け、しばらくぐったりとした。しかし、溜まっていたものを放出した事で、ようやく物事を冷静に考えられるようになった。汚した箇所をトイレットペーパーで拭き取りながら、考えを廻らせた。このまま放置するわけにはいかない…この事が明るみに出れば、父や兄達から、お前の家庭管理がなってないから会社の体面が傷付けられたと激しく責められるだろうし、部下の課員達からも嘲りを込めた白い目で見られるだろう。クビにはならないにしても、自分を疎んじている兄達によって、関連会社に出向や転籍させられて、今の会社に居られなくなるかもしれない。何としても真弓にデリヘル嬢を止めさせて、普通の主婦に戻ってもらわなければ…心を決めた博史は洗面台で 手と顔を洗い、急いで総務課に戻って行った。

 その日の夕方、真っ直ぐに帰宅した博史は、着替えもせずにスーツ姿のままでダイニングテーブルに着き、真弓を呼んで対面に座らせた。怪訝な顔をしてテーブルに着いた真弓に、博史はおもむろに話を切り出した。
「真弓、君は僕に隠している事があるだろう」
「あなた、急に何を言い出すの?一体、何の事?」
 小首を傾げて答える真弓の前に、博史は探偵社名が入った大型の封筒を置いた。
「君の最近の行動が変だったので、探偵社に素行調査を依頼したんだ…中を見てみたまえ」
 顔色をさっと変えた真弓は、少し手を震わせて封筒の中から書類と写真を取り出した。写真を見た彼女は、顔を引きつらせた。真弓は顔を赤くして調査報告書を読んでいたが、読み終えた時には普段の平静な顔色に戻っていた。博史は、真弓に強い口調で言った。
「君が陰でこんな事をしていたとは、とても信じられなかった…過ぎた事をとやかく言うつもりはない。とにかく、こんな破廉恥な真似は止めてくれ。こんな事が父や兄達に知れたら、僕は会社にいられなくなってしまうかもしれない。どうか普通の主婦に戻ってくれ…」

しかし、真弓は博史に答えず、黙って傍らのポーチに手を伸ばした。彼女はポーチから煙草の箱とライターを取り出し、煙草を口にくわえると、ライターにカチリと音をさせて火を点けた。真弓は完全に開き直った顔つきで、煙草の煙をフゥーッと天井に向けて勢いよく吐き出した。今まで真弓が煙草を吸うと知らなかった博史は、目を丸くして彼女が喫煙する姿を見ていた。
 真弓は紫煙をくゆらせながら、唐突に話し始めた。
「…私、小さい時から男の子を虐めるのが好きだったの。お医者さんごっごと言って男の子を裸にし、包茎の皮を引っ張ったり、肛門にジュース瓶の口を押し込んだりして虐めたわ。男の子が泣き出すのが、楽しくてしょうがなかった。
小学生の時、スカートめくりをするエッチな男子を、クラスの女の子数人を誘って一緒に取り押さえて、ズボンとパンツを剥ぎ取ってフルチンにし、校庭の鉄棒に縄跳びの縄で縛りつけ、鞭代わりに縄跳びで散々打ちのめし、晒しものにするリンチをして泣かせたこともあったわ。泣いている男子を打ち据えている時、あそこが凄く疼いてね。リンチの後、トイレに駆け込んで、自分の指であそこを弄って凄く感じたの。

それが、私の性の目覚めよ。その男子はしばらく不 登校になってしまい、PTAでも問題になって、先生から凄く叱られたけどね…中学に上がったら、四十歳半ばで独身のキモい先生がクラスの担任になったの。
その担任の先生は生徒指導室で私と二人きりになった時、急に私の足元に這いつくばり、私が履いていた上履きにキスしながら『奴隷にして下さい』と哀願したのよ。ロリコンの変態マゾだったから、四十過ぎても独身だったのね。マゾの本能で、私が生まれながらのサディスティンと見抜いたみたい…その時はびっくりしたけど、SMについてあれこれ説明され、聞いているうちに興奮して下半身が疼いたの。

その変態教師のマンションで、色々と楽しんだわ。鞭打ったり、肛門をディルドゥで犯したり、馬にして延々と部屋の中を這い回らせたり、舌が 腫れ上がる程あそこを舐めさせたり、便器にしておしっこを飲ませたりと、SMの初歩的なプレイを指導してもらったのよ。今思い出しても、楽しかったわ…」
 博史は唖然として、真弓の独白を聞いていた。真弓は話を続けた。
「中学を卒業して、その変態教師とはそれっきりになったけど、高校に入ったら、逆に私から教師を奴隷にしてやったわ…数学の担当が大学出たての若い先生で、いかにも理数系らしく線が細くて気が弱そうだったから、私の言いなりに出来そうだと思ってね。職員室に数学の分からないところをちょくちょく訊きに行き、その先生のアパートを訪問するところまでこぎつけたの。後は簡単よ。

自分で服を脱いで下着姿になり、『言う事を聞かなかったら、外に飛び出して、先生にレイプされたと大声で叫んでやる!』と脅かしたら、顔を真っ青にしておろおろしてたわ。前もって用意していた手錠を後ろ手に掛け、床へ仰向けに転がして、顔に跨ったの。私のお尻で先生の顔を押し潰して散々蹂躙し、パン ティ越しに股間の臭いをたっぷり嗅がせてやったわ。その先生はまだ若かったせいか、直ぐに股間を大きく膨らませたから、ズボンとパンツをずり下ろし、硬くなったものを手荒くしごいてやった。『教え子に弄られて感じるなんて、恥ずかしくないの!最低の変態教師!』と罵りながらね。その先生はあっと言う間に多量の白濁液を迸らせて、泣き出したわ。私は先生のズボンからベルトを抜き取り、それを鞭代わりにして、剥き出しのお尻を散々打ちながら、『メソメソ泣いてないで、自分で出したものは、自分で舐め取るのよ!』と命令した。

先生は泣きながら、自分が床に放出した精液を舐め始めたわ。その日以来、先生は私の言いなりになり、奴隷としてみっちり仕込んでやった。元々マゾっ気があったの か、私に絶対服従する奴隷になったの。その関係は私が高校卒業するまで、三年間続いたの。卒業式の前夜に私のおしっこを飲んだ後、あそこを舌でペロペロ舐めて後始末しながら、『真弓様、お願いですから、卒業しても僕を捨てないで下さい』と哀願した先生の泣きそうな顔は、今でも覚えているわ…」
 博史は呆然として、口をポカンと開けたまま、真弓の独白を聞いていた。彼女の話は続いた。

「その先生には飽きちゃったし、進学した大学が遠い事もあって、先生との関係はそれで終わったの。大学では言い寄ってくる男子学生が多かったけど、私には皆子供に見えて、もう普通の男女交際は出来なかった。だから、夜の街に出て、あるSMクラブの門を叩いたの。SMクラブの方では、私が若すぎると心配したみたいだけど、プレイをしたら直ぐに指名客がついて売れっ子になったわ。

私の性に合っていたのね。薄給のサラリーマンから社会的地位のある紳士まで、私目当てにSMクラブにやって来て、私の足元に這いつくばった…でも、お金を払って貰っている以上は接客業で、SMクラブでのプレイは客に好みに合わせないといけないから、結構ストレスが溜まってね。だからSMクラブの仕 事とは別に客達の中から何人かの金持ちを選んで、プライベート女王様の奴隷契約を結ばせたの。
その奴隷達に借りさせたマンションで、日替わりで訪ねてくる奴隷達に自分の好きなプレイを施して、存分に楽しんだわ。奴隷達にお金やブランド品を貢がせ、四苦八苦しながら少ない仕送りでやりくりしている同級生とはかけ離れた優雅な大学生活を送ったものよ。私が大学を卒業した時は就職氷河期で、同級生達は就職が決まらずに暗い顔をしていたけど、私は大企業の重役をしていた奴隷に命じて、早々と就職を決めたの。その時の私は、自分を中心に世界が回っているように思えたわ…」

 博史は相変わらず呆然として真弓の独白を聞いていたが、知らないうちにスラックスの股間部分が痛い程突っ張っていた。真弓の独白は続いた。
「大企業のOLになっても、夜のSMクラブの仕事とプライベートの女王様は続けたわ。20代の前半は楽しかったけれど、20代後半になったら体力的にきつくなったの。30歳を目前にして、両親から『いい加減に落ち着きなさい』と説教され、あなたとの見合いをさせられたわ。私もそろそろSMの世界から手を引き、普通の専業主婦になる潮時だと思って、あなたと結婚したのよ…でも、結婚してしばらくすると、退屈でたまらなくなった。

あなたとのセックスも、全然感じなくてうんざりしてたわ。所詮、私に普通の主婦は務まらなかったのよね。それで、昔のコネを使ってSMデリヘル嬢の仕事を始めたのよ。久しぶりに、本当の自分を取り戻せた気分だったわ…まあ、いいわ。バレちゃったら 、仕方ないわね。すっぱり別れましょう。お互いに、自分の進むべき道を歩いて行きましょうよ」
 真弓は話し終わると、吸っていた煙草を灰皿に押しつけて揉み消し、立ち上がった。彼女はタンスを置いている和室に向かって、すたすたと歩いて行った。真弓の独白を聞いていた博史は頭が真っ白になって、しばらく呆然と座っていたが、はっと気づき慌てて立ち上がって彼女の後を追った。和室では、真弓がタンスから自分の衣服を取り出しているところだった。
 博史は、ただ真弓に普通の主婦へ戻ってもらいたかっただけで、離婚は全く考えておらず、真弓とは絶対に別れたくないと思っていた。博史は後ろから真弓に抱きつき、彼女を止めようとした。
「真弓、待ってくれ!別れるなんて言わないでくれ!」
 しかし、真弓は金切り声を出して、博史を邪険に振り払った。
「やめて、放してよ!」
「うぐっ…」
 真弓が腕を振って博史を振り払った際、肘がたまたま彼の鳩尾に深く入った。博史は呻き声を洩らし、彼女の足元にうずくまった。真弓は自分でも意外そうな顔で床に体を丸めた博史を見下ろしたが、
「…急に抱きつくあなたが悪いのよ」
と冷たく言い放って、タンスの方に向き直った。博史は腹全体に広がる痛みをこらえながら、真弓の足元にすがりついて懇願した。
「頼む、僕と別れないでくれ…離婚だけは思いとどまってくれ」
「やめてよ!放してと言ってるでしょう!」
 真弓が脚を振り払うと、踵が博史の頬にひどく当たり、彼はもんどり打った。博史は頬を押さえ、呆然とした顔つきで真弓を見上げた。その時、真弓の眼が妖しく光った。天性のサディスティンである彼女は、博史が一瞬浮かべた陶酔の表情を見逃さなかった。
(この人、喜んでる!?)
 博史は真弓の足元に這いつくばって土下座すると、必死に哀願した。
「頼む、何でもするから別れないでくれ。どうか、離婚だけは思いとどまってくれ。お願いだから…」
 真弓は自分に土下座して卑屈に哀願する博史を、冷たい眼で見下ろしていた。スーツ姿で惨めに土下座する博史の姿と、今まで奴隷にしてきた大企業の重役達の姿が重なって見えた。
自分の夫である博史を、もっと辱めて虐めてやりたい…真弓の胸に情欲の黒い炎が湧き上がった。
「…そう、何でもするの?」
「ああっ、何でもする、何でも言う事を聞く…だから、別れないでくれ…」
 博史は顔を上げて答えた。今度は、真弓は意識して、足裏で彼の頬を強く蹴った。
「ひいっ」
 博史は短い悲鳴を洩らし、再度もんどり打った。真弓の口から、周りの物が凍り付くような冷たい声が発せられた。
「あなたは探偵を使って、私の事をいやらしく嗅ぎ回ったのよ…私が秘密にしておきたかった事を暴いたわ…あなたは私の心を深く傷付けたのよ…」
「わ、悪かった。僕が悪かった…君を傷付けるつもりはなかったんだ。どうか、許してくれ…」
 博史は再び真弓の足元に土下座し、額を畳に押しつけた。真弓を手放したくない彼は、彼女に機嫌を直してもらおうと必死で、恥も外聞も無かった。真弓は勝ち誇ったような口調で、博史に申し渡した。
「だったら、私を傷付けた償いに罰を受けてもらうわ。嫌なら離婚するわよ…どうするの!」
「分かった、どんな罰でも受けるから、離婚だけは勘弁してくれ」
 真弓は土下座したまま答えた博史の頭を踏みにじり、彼の顔を畳に擦りつけた。
「それなら、今からあなたに罰を与えるわ…最後まで耐え抜いたら許してあげるけど、途中で「止めてくれ」とか泣き言を言ったら即離婚よ。いいわね!」
「ああ、どんな罰でも耐えてみせるから、離婚しないでくれ…」
 博史は畳に擦りつけられた顔の痛みをこらえながら、卑屈な声で真弓に哀願した。真弓は博史の頭から足を外し、冷たい声で命令を下した。
「そのまま土下座した姿で、お待ち!いいと言うまで、顔を上げるんじゃないわよ!」
 真弓は押入を開けると、身を屈めて奥を探り、デパートで引っ張っていた大きい黒色キャリーバッグを取りだした。キャリーバッグを開くと、中にはSMプレイに使用する色々な責め道具と様々な革製品、それに扇情的なボンデージ衣裳が詰め込まれていた。彼女はキャリーバッグの中から麻縄を取りだし、博史に命じた。
「土下座したままで、両腕を背中に回しなさい!」
 博史が額を畳につけたままで両腕を背中にやると、真弓は慣れた手つきで両手を後ろ手に縛った。
「体を起こしなさい!」
 真弓に命じられた博史がおずおずと上体を起こすと、彼女はてきぱきと麻縄を博史の胸と腹部に回して縛りあげた。
「ぼやぼやしてないで、きりきりお立ち!」
 博史が些かよろめきながら立ち上がると、真弓は麻縄を鴨居に掛けて引っ張り、彼を爪先立ちにさせた。真弓は麻縄の端を柱に結び付けて固定すると、キャリーバッグから別の麻縄を取りだして、博史の両脚を縛った。彼女はその麻縄を鴨居に掛けて引っ張り、博史を水平にして宙吊りにした。真弓はスカートをたくし上げ、パンティとストッキングを脱ぐと、博史に命じた。
「口をお開け!」
 博史がおずおずと口を開けると、真弓は脱いだパンティを裏返して、彼の口に押し込んだ。饐えたような強烈な女の臭いが博史の口から鼻孔の奥まで充満し、彼は目を白黒させた。真弓はストッキングで博史の口を縛り、猿ぐつわの代わりにした。
「スーツ姿の男が宙吊りにされている姿が、私は好きなの…そのまま、しばらく待っていなさい」
 真弓はキャリーバッグを閉めると、隣の部屋に引っ張っていった。

 狩りの獲物の様に体を宙吊りにされた博史の思考は、すっかり混乱していた。
(俺は何をしているんだ…いくら真弓と別れたくなくとも、彼女の言いなりになって、こんな不様な格好をさせられるなんて…)
 しかし、博史は自分の股間の猛りを、痛い程感じていた。彼の脳裏に、真弓の妖艶なボンデージ姿が浮かんだ。
(こんな惨めな状態で、俺は興奮している…真弓に虐められたいのか…俺はマゾの変態だったのか…そんな馬鹿な…俺はただ真弓と離婚したくないだけだ…)
 博史は口に詰め込まれた真弓の汚れたパンティの饐えた臭いに咽せながら、思い悩んだ。スーツの上からとはいえ、30歳を過ぎて体重が増え、弛んできた体に麻縄がきつく食い込み、博史を苦しめた。
(痛い…苦しい…真弓、早く戻って来てくれ…)
 30分位経ってから、ようやく真弓がキャリーバッグを引っ張って戻って来た。博史は真弓の姿を見て、目を剥いた。彼女は濃いメイクをして、髪はアップでまとめ、DVDで見たのと同じに黒色のボンデージ姿をしていた。豊かな胸を誇らしげに露わにし、胴体は黒革のコルセットで締め付け、網タイツに太腿まであるブーツを履いている。黒色のパンティを穿いてはいるが、薄く透けているので、濃い繁みがはっきりと見える。彼女は博史の前で、身体を一回転して見せた。
「どう、この格好?私、この姿がお気に入りなの」
 真弓は博史の両脚を縛っていた麻縄を解き、彼の爪先を畳に着けさせ、上半身だけで鴨居に吊した格好にした。彼女は博史のベルトを外すと、スラックスを一気に引きずり下ろした。パンツも靴下も剥ぎ取り、下半身を裸にする。真弓は手際よく博史の両足首に金具の付いた革具を嵌めた。彼女はキャリーバッグから伸縮する金属パイプを取り出すと、革具の金具に取り付け、博史の両脚を開いた状態に固定した。博史は、上半身はネクタイを締めたスーツ姿で、下半身はフリチンで両脚を開き、鴨居に吊された珍妙な姿にさせられてしまった。

 真弓は立ち上がると、博史の股間に手を伸ばした。彼の股間のものは、硬く屹立していた。真弓は彼の硬くなったものを握ると、ゆっくりしごき始めた。や、止めてくれ…と、博史は大声を出したかったが、口に真弓のパンティを詰め込まれ、その上をストッキングで縛られている状態では、意味不明の呻き声を漏らす事しか出来なかった。真弓はますます硬くなった博史のものをしごきながら、彼を嘲笑った。
「うふふ、こんな惨めな格好をさせられているのに、凄く興奮しているじゃないの…やっぱり、お前はマゾだったんだね。世の中には色々な変態がいるけど、男のマゾは変態の中で、最も醜悪なのよ。男のくせに、「奴隷にして下さい、虐めて下さい」と女ににじり寄って懇願する姿がどれ程醜いか、お前にも分かるでしょう。お前は最低の変態なんだよ!」

 真弓の嘲りが博史の胸を深く抉った。彼は思わず頭を横に振ったが、股間の猛りは隠しようがなく、顔が紅潮して、目の奥が熱くなり涙がこぼれそうになった。自分が最低の変態マゾだと真弓に罵られ、博史は精神が組み伏せられた様に感じた。
真弓の柔らかい手が博史の屹立したものをしごき続け、絶頂に達しそうになる。博史は身震いして快感に耐えようとしたが、耐えきれないのは自分でも分かっていた。あと一擦りでいってしまう…博史が限界を超えそうになった瞬間、真弓はぱっと手を放した。絶頂の一歩手前でしごくのを止められた博史は、くぐもった呻き声を漏らした。真弓は博史の屹立したものを、平手で力強く打ち始めた。

「女の、前で、こんな、醜いものを、よくも、硬く、出来るわね。最低の、恥知らずの、変態!」
 真弓は博史を罵りながら、一句ごとに区切りをつけて、彼の硬くなったものを思いきり平手打ちした。博史は自分の屹立したものを、妻である真弓に平手打ちされる屈辱と痛みで身震いし、呻き声を漏らして顔を紅潮させた。しかし、どういう訳か、彼のものは更に硬くなってしまった。


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強制飲尿病棟 強制飲尿執行官編 吉原あいか&おりえあん