余 命

作者 namelessさん
藤沢祐司は、医師から説明を受けて愕然とし、ショックで言葉を失っていた。
「…ですから、胃癌が既に全身へ転移しており、切除手術は不可能です。放射線治療や抗ガン剤治療も検討しましたが、身体への負担が大き過ぎて、逆に命を縮める結果になるでしょう。私は、痛みを軽減するペインクリニックの受診をお勧めします。あなたの余命は、おそらく三ヶ月、どんなに長くても半年には届かないでしょう」

 ふらふらと大学病院を出た祐司は、タクシーに乗って自宅に向かった。彼はタクシーに揺られながら、とりとめのない事を思いめぐらせていた。
29歳の祐司は、大手精密機械メーカーの開発・設計部門で勤務しており、先月係長に昇進して、新製品開発プロジェクトのリーダーを任され、周囲からはエリートの出世頭と見なされていた。私生活でも、二ヶ月前に結婚し、新居のマンションを購入したばかりで、公私ともに順調な人生を歩んでいた。
仕事と私生活に大きな変化があった祐司は、ストレスで酒量が増え、胃に若干の痛みを感じ、念のために大学病院で精密検査を受けた。本日は検査結果を聞きに来たのだが、まさか癌だとは予想していなかった。
まだ、30歳にもなってないのに…残り僅か三ヶ月の命で、どうすればいいのか…祐司は奈落の底に突き落とされた気分で、頭を抱えた。
タクシーがマンションに着き、祐司は些かふらつく足取りで、自宅の部屋に向かった。玄関ドアを開けて部屋に入ると、新妻の留美子が出迎えて、検査結果を訊ねた。祐司が苦しげに顔を歪めて答えると、留美子は、
「嘘、嘘でしょう!信じられない、嘘だと言って!」
と叫び、その場に泣き崩れた。フローリングの床に突っ伏して号泣する留美子の姿を見た祐司は、逆に冷静になり、これから自分がすべき事を順序立てて考えることが出来た。

 翌日出社した祐司は、真っ直ぐ上司の机に向かい、自分の病名と余命を説明し、身辺整理のためにと、10日間の有給休暇を申請した。普段は休暇を取るのに口うるさい上司も、祐司の事情を聞いて、さすがに何も言えず、即座に有給休暇を許可した。
 祐司は会社を後にすると、クレジットカードの会社に行き、清算を済ませて解約し、マンション・銀行口座・自動車・有価証券等を自分から留美子の名義に変更するため、走り回った。名義変更の手続きには、住民票や印鑑証明等の色々な書類が必要となり、この作業に丸二日を費やした。
 有給休暇を取って三日目の午前中、一通りの手続きを終えた祐司は、自宅マンションで泣き顔の留美子とソファに並んで座り、色々と説明した。
「…まさか、この年で終活をするとは、思わなかったな…まあこれで、大方は留美子さんの名義に換えたから、僕がいつ死んでも問題は無いよ。加入している生命保険の証書を確認したら、ガンの特約が付いていたから、治療費や入院費は保険でカバー出来るし、このマンションのローンは、僕の死亡保証で相殺されて無くなる…だから僕がいなくなっても、とりあえず留美子さんの生活に支障は無いから、安心してくれ」
 留美子は祐司に抱きつき、泣きじゃくった。
「祐司さんが私のために色々してくれるのは嬉しいけど、祐司さんがいなくなるなんて、耐えられない…祐司さん、死んじゃ嫌よ。祐司さんが死んだら、私も死ぬ!」
 26歳の留美子が泣きじゃくるのも、無理はない。何しろ結婚して、まだ二ヶ月の新婚なのだ。祐司と留美子は、共通の友人を介して知り合った。線が細く物静かで、如何にも技術者らしい知的な顔立ちの祐司に、留美子が一目惚れして、交際が始まった。大企業の受付嬢をしていた留美子は、魅惑的な美人でグラマーな身体をしているので、男達からの誘いがひっきりなしにあったが、全て断っていた。彼女は、金や地位や家柄をひけらかせて、自信満々にアプローチしてくる男達に辟易していたのだ。留美子は知的な学者タイプの男性が好みだったので、祐司は正に彼女のタイプだった。
 勉強と仕事一筋で、女性とつき合った事が殆ど無かった祐司も、若く美しい留美子に魅了され、トントン拍子に結婚が決まったのだった。結婚すると留美子は寿退社して、専業主婦となった。大好きな祐司にかいがいしく尽くすのが、彼女の喜びだった。その祐司が、癌で余命三ヶ月とは…若い新妻の留美子は、ただ泣く事しか出来なかった。
 祐司は、自分の胸で泣きじゃくる留美子を抱きしめ、彼女の頭を優しく撫でて、諭すように話した。
「死ぬなんて、馬鹿な事を言わないでくれ…僕がいなくなっても、留美子さんが困らないように、出来る事は全てしたつもりだ…留美子さんはまだ若いんだから、早く再婚して、僕の分まで幸せになって欲しい…僕は留美子さんが幸せに暮らしてくれたら、この世に未練は無いから…」
 留美子は泣きながら、イヤイヤするように首を振った。
「再婚なんて、考えられない!私には、祐司さんしかいないのよ。そんな悲しい事、言わないで…」
 二人は肩を震わせて、固く抱き合った。しばらくして、祐司がぽつんと言った。
「留美子さん、一つお願いがあるんだ…」
「…何?何でも言って。私、祐司さんのためなら、何でもするわ!」
 祐司の胸に顔を埋めたまま、泣き声で答えた留美子に、彼は些かためらいながら言った。
「実は…SMをしたいんだよ」
「ええっ!?」
 驚いた留美子は一瞬泣くのを忘れ、抱きしめた腕を放して祐司から離れ、唖然として彼の顔を見つめた。
「祐司さんに、そんな趣味があったの…?ま、まさか、私を縛ったり、叩いたりしたいの?」
 留美子の問いに、祐司は恥ずかしさで顔を赤くし、俯いて答えた。
「いや、違うんだ…逆に、留美子さんに虐めて欲しいんだよ…実は僕、マゾヒストなんだ」
「う、嘘でしょう…」
 愕然とした留美子に、祐司は恥ずかしそうに訥々と話し始めた。
「僕は小さい頃、女の子をよくからかって怒らせ、女の子に叩かれたり、追いかけられたりして、喜んでいたんだ。女の子に嫌われても、構われるのが好きだったんだな…中学三年生の時、親が持っていたアダルト系の小説雑誌を見つけてね…こっそり読んでいると、ある組織に捕まった男が、全裸で天井から吊され、女性に性器を散々弄られて、限界までじらされたあげく、そこを女性に鞭打たれて、泣きながら射精してしまうという描写があったんだ…僕はそれを読んで凄く興奮し、何もしていないのに射精してしまったんだよ。それで、自分が普通じゃないと、自覚したんだ…」
 留美子は完全に泣き止み、祐司の告白を呆然と聞いていた。祐司の告白は続いた。
「まだSMの知識は乏しかったけど、親が留守の間にネットで色々とアダルトサイトを検索して、自分がマゾだと、はっきり分かったんだ…高校生の時は、小遣いの殆どをSMのマゾ専門雑誌とマゾDVDに注ぎ込んだよ。自分の性癖がマゾだと分かってから、女性との交際は敢えて避けた。男のマゾがどれ程恥ずかしいか知っていたから、ばれるのが恐かったんだ。それは大学生になっても、社会人になっても同じで、女性とつき合った事は殆ど無く、もやもやした欲求を全て勉強と研究と仕事に向けて、気を紛らわせようとしていた…」
 留美子は祐司の告白を聞いて、頭が混乱し、何と言っていいか全く分からなかった。
「それでも留美子さんと知り合い、結婚して、自分のマゾを治そうとは思ったんだ。でも、駄目だった…正直に言うと、留美子さんとの夜の営みは、いつも留美子さんに罵られ、虐められるのを妄想しながら、勤めていたんだ…それでも僕は、本当に留美子さんを愛していたから、自分のマゾの性癖は一生の秘密にして、墓場まで持って行くつもりだった…」
 恥ずかしそうに俯いて告白していた祐司だったが、ここで顔を上げ、留美子の目を真っ直ぐ見つめて、懇願した。
「でも僕の命は、残り僅か三ヶ月だ…今までずっと押し殺し、我慢していた願望を叶えて、あの世に旅立つのに、心残りが無いようにしたいんだよ…お願いだ、死に行く者の哀れな願いと思って、僕を奴隷にして虐めてくれ!」
 祐司に異常な懇願をされた留美子は、頭がすっかり混乱し、パニックを起こす一歩手前だった。真面目で知的で、愛している夫の祐司に、まさかマゾの変態趣味があったなんて…普段の留美子であれば、嫌悪感を露わにして、きっぱりと拒絶していただろう。しかし、三ヶ月の余命宣告をされて、残される自分のために色々と奔走してくれ、すがりつくような目で自分を見つめて懇願する祐司に、とても拒絶の言葉を投げつける事は出来なかった。
「…わかったわ、祐司さん…私は、一体どうすればいいの?」
 やっとの思いで留美子が答えると、祐司は目を輝かせてソファから立ち上がり、衣服を全て脱ぎ捨て全裸になって、ソファに座っている留美子の足元に正座した。
「留美子さん…いえ、留美子様、私は自分がマゾの変態である事を隠し、留美子様を騙して結婚した大罪人です…まず、私の頬を平手打ちして叱り、罵って下さいませ」
 急に全裸になって、自分の足元に正座し、言葉遣いも変えて罰をねだる祐司を見た留美子は、驚きで目を丸くした。彼女の混乱は治まっていなかったが、それでも愛する夫の願いだと自分に言い聞かせ、正座している祐司の頬を、何とか軽く平手打ちした。しかしそれでは、祐司が満足出来なかった。
「留美子様、私のような大罪人に、御慈悲は無用でございます…どうか、頬が張り裂け、首が折れる程に、思い切りお打ち下さいませ」
 祐司の哀願を聞いた留美子は、苦しげに顔を歪めたが、それでも腕を大きく振り上げ、思い切り力を込めて、彼の頬を平手で張った。
「ひいっ」
 予想以上の強い衝撃と痛みを受けた祐司は、短い悲鳴を漏らして、床へ横倒しになった。はっとした留美子は、慌てて彼に心配そうな声を掛けた。
「ああっ、祐司さん、ごめんなさい…大丈夫?」
 祐司は直ぐに上半身を起こし、正座の姿勢に戻った。
「留美子様、罪を犯した卑しい奴隷に、お情けは必要ありません…もっと強く私を叩いて、罰して下さいませ!」
 留美子は泣きそうな顔になり、再び力を込めて、祐司の頬を平手で強く打った。今度は祐司も衝撃と痛みを覚悟していたのか、歯を食いしばり、正座の姿勢を崩さなかった。
「留美子様、もっと続けて激しく打って、私の大罪を思い知らせて下さいませ!」
 祐司に哀願され、留美子は顔を泣き出しそうに歪めながらも、立て続けに何度も、彼の両頬を力強く平手打ちした。歯を食いしばってビンタに耐えている祐司を見て、留美子は自分の心の奥底から、何かが噴き出しそうになるのを感じた。それは彼女にとって、絶対に認めたくない、どす黒い邪悪な欲望だった。
 留美子は、祐司の両頬が赤く腫れ上がるのを見て、自分の手も痛みを感じ始めた事もあり、平手打ちを止めた。
「…祐司さん、これでいいの?」
 留美子が恐る恐る祐司に訊ねると、彼は脱ぎ捨てたスラックスから革ベルトを抜き取り、両手でうやうやしく差し出した。
「留美子様、私の大罪は、まだ償えておりません。これで私を鞭打って、罰して下さいませ…それと私の事は、“祐司さん”ではなく“男奴隷”とお呼びになって、蔑んで下さいませ」
 留美子が、ためらいながらも革ベルトを受け取ると、祐司は彼女に背を向けて、四つん這いになった。留美子はソファから立ち上がると、祐司の背中に恐々と革ベルトを振り下ろした。手ごたえの無い革ベルトの鞭打ちを受けた祐司は、留美子にもっと強い打撃を求めた。
「留美子様、私は卑しい男奴隷の分際で、留美子様を騙して結婚した大罪人です。ご遠慮なさらず、お情けは一切ご無用で、思い切り打ちのめして下さいませ!」
 祐司の願いを聞いた留美子は、泣きたくなる思いで彼の背中に、力を込めて革ベルトを鋭く振り下ろした。ビシッと弾ける様な音がして、彼の背中に見る見る赤い条痕が浮き上がった。祐司は、食いしばった歯の隙間から、苦しげな呻き声を漏らし、体を震わせて革ベルトの打撃に耐えた。
 祐司が、必死に革ベルトの鞭打ちに耐える姿を見て、留美子は心の奥底から黒い業火が噴き上がったのを自覚した。それは彼女が認めたくなかった、男を虐待して悶え苦しむ姿を楽しみたいという、どす黒い嗜虐の欲望であった。
 留美子は逆上してしまい、目を吊り上げて顔を引きつらせ、一切の手加減無しで、祐司の背中に何度も力強く革ベルトを振り下ろした。
「何よ、この変態!私にこんな恥ずかしい真似をさせて、どういうつもりよ!絶対に許さないからね!もっと苦しむのよ、最低の変態マゾ!」
 留美子は酔ったような目をして、祐司を口汚く罵り、立て続けに何度も彼の背中へ、革ベルトを力一杯振り下ろした。祐司は固く目をつぶり、歯を食いしばって耐えていたが、遂に倒れて床に突っ伏した。
 しかし、留美子は革ベルトの鞭打ちを、まだ止めなかった。うつ伏した祐司の背中が、赤い筋でびっしり覆われているのを見た彼女は、次に彼の尻を何度も革ベルトで打ち据えた。
「まだよ、まだよ!まだ、許さないからね!」
 祐司の尻は見る見る腫れ上がったが、留美子は革ベルトを振るう手を、止めようとしなかった。
「うあぁーっ、留美子様、もうお許しを、どうか御慈悲を…」
 さすがに祐司も限界を感じたのか、彼の口から悲鳴と、必死に許しを請う声が上がった。祐司の哀れな嘆願の声を聞いた留美子は、はっと我に返った。留美子の手から革ベルトが床に落ちて、彼女は祐司の傷だらけの背中に覆い被さり、抱きしめて、泣きそうな声をだした。
「ごめんなさい、祐司さん…もう、こんな恐ろしい事は、止めましょう…」
 さすがにこれだけの傷を負い、痛い思いをすれば、祐司は止めるだろうと、留美子は予想した。しかし、祐司は意外な返答をした。
「いえ…留美子様、泣き言を漏らしてしまい、申し訳ございません。私の大罪は、まだ償い終えておりません…もっと罰をお与え下さいませ」
 留美子が絶句して祐司から離れると、うつ伏せていた祐司は、辛そうに寝返りを打って、仰向けになった。その時、留美子は祐司の股間を見て、目を疑った。あれ程痛い目に遭ったにも関わらず、股間のものが硬く屹立していたのだ。それは留美子との夜の営みの時より、猛々しく勃起していた。
 祐司が興奮しているのが、それも自分とのセックスの時より興奮しているのが分かった留美子は、壮絶な怒りを覚えた。彼女の理性から、最後の留め金が弾け飛び、完全にタガが外れた。留美子は床の革ベルトを拾うと、硬く握り締めた。
「こんなに痛い目に遭っても、興奮するなんて…こんなもの、叩き潰してやるわよ、この変態!」
 留美子は革ベルトを振り上げると、祐司の硬く屹立したものを、怒りにまかせて思い切り打ち据えた。
「グギェーッ」
 股間のものを強かに打たれた祐司は、獣の様な雄叫びを上げ、両手で股間を押さえ、体を丸めて苦しんだ。
「マゾで最低の変態のくせに、よくも私と結婚してくれたわね!絶対に許さない!思い知らせてやるわ!」
 留美子は祐司を罵倒すると、彼を足蹴にして、革ベルトで何度も打ち据えた。祐司は悲鳴を上げ、床を転げて、苦しんだ。祐司は背中と尻だけではなく、全身に赤い条痕が刻み込まれた。しかしそれでも、股間の屹立は萎えなかった。
 留美子も、祐司を革ベルトで打ちのめして凄く興奮し、猛烈に昂っていた。彼女は、もどかしそうに服を全て脱ぎ捨て、祐司と同じ全裸になった。留美子は脱いだパンティを手にすると、
「変態マゾなら、汚れたパンティが好きでしょう!よく、味わいなさい!」
と言って、祐司の口に淫液で濡れたパンティを押し込んだ。それから、彼の体に跨って押さえつけた。
「今から、お前を犯してやるわ!」
 性欲が異様に昂った留美子は、祐司の硬く屹立したものを、興奮してぬるぬるに濡れている自分の陰唇に当てがうと、一気に腰を下ろした。
「はうっ」
 留美子の口から、吐息が漏れた。彼女は、暴れ馬の様に腰を激しく動かした。
「私は奴隷を犯すのよ!男奴隷を犯しているのよ!」
留美子は、自分に言い聞かせるように、卑猥に喚いた。口にパンティを詰め込まれた祐司は、もごもごと呻き声を漏らしていた。今までの普通のセックスとは比べものにならない、子宮が溶け落ちるような快感が、留美子を襲った。
「ああっ、イクわ、一緒にイクのよ!精液を全て、私に捧げるのよ!」
 祐司に跨って、激しく腰を動かしていた留美子は、絶頂を迎えて体を震わせ、祐司の体に倒れ込んだ。祐司も、同じように果てたようだった。二人は、しばらく床の上で固く抱き合って、荒い息をした。


「祐司さん、痛くして、ごめんなさい…私も興奮して、おかしくなっちゃったみたい…」
少し落ち着いた留美子が、祐司の口からパンティを引っ張り出し、話し掛けた。
「いいんだよ、僕が望んだ事だから…ありがとう、留美子さん」
 祐司は普段の口調に戻って、返事をした。留美子は目に涙を浮かべて、祐司にお願いした。
「祐司さんが私のために、色々してくれたのは嬉しいけど、もっと欲しいものがあるの…私、祐司さんの忘れ形見が…子供が欲しいの」
「…わかった。僕の余命は僅かだけど、その間に何とか子供を作ろう」
「そんな悲しいこと、言わないで…」
 二人は、再度固く抱き合った。しばらくして、留美子が少し恥ずかしそうに、祐司に告げた。
「ごめん、ちょっとトイレ…おしっこしたくなっちゃった」
 留美子が祐司の体から離れて立ち上がると、祐司が脚にすがりついた。
「留美子さん、ちょっと待ってくれ…いや、留美子様、お待ち下さい」
 祐司の口調が再び急に変わったのを、留美子は怪訝に思った。祐司は、彼女に懇願した。
「留美子様、この男奴隷の口を、便器に使って下さいませ」
「何言ってるの?どういう意味?」
 留美子は、祐司の言う意味が分からずに、聞き返した。
「留美子様のおしっこ…いえ、聖水を恵んで下さい。留美子様の聖水を、飲ませて下さいませ」
「何ですって!?まさか…私のおしっこを、飲みたいの?」
 留美子は唖然として、祐司の顔を見つめたが、彼の表情は真剣だった。
「はい…この卑しい男奴隷を便器に落として、もっともっと辱めて下さいませ」
 おしっこが飲みたいだなんて、信じられない…留美子は驚いたが、同時に嗜虐の黒い業火が、再度噴き出した。留美子は、自分の脚にすがりついている祐司の顔を、膝蹴りした。
「ぐわっ」
 祐司は呻き声を漏らし、床へ仰向けに倒れた。留美子は、倒れた祐司の顔を素足で踏みにじり、罵った。
「おしっこを飲ませてくれだなんて、最低の変態だね、お前は!そんなに飲みたいのなら、便器にして、たっぷり飲ませてあげるわよ…トイレじゃ狭いから、浴室にお行き、変態マゾ!」
「はい、留美子様」
 祐司が立ち上がろうとすると、留美子が彼の顔を足蹴にして、再度床に倒した。
「誰が立っていいと言ったの!男奴隷で便器のくせに、人間様みたいに二本足で歩こうとするんじゃないわよ!最低の変態らしく、犬みたいに四つん這いでお行き!」
「…はい、わかりました」
 留美子に命じられた通りに、祐司は這って浴室に向かった。後ろから、留美子が彼の尻を足蹴にしながら、ついて行った。
 祐司は浴室に入ると、仰向けに横たわった。留美子は彼の顔に跨って立つと、そのまま腰を下ろした。祐司は期待に顔を輝かせて、口を大きく開けた。
 留美子は和式便器を使うように、祐司の顔に跨ってしゃがんでいたが、尿を渇望して口を開き、自分の陰部を食い入るように見つめる祐司の視線を意識して、変に緊張してしまい、尿意は高まっているのだが、なかなか出なかった。
「ああ…駄目ね、出ないわ」
 留美子は焦りを感じ、思わず泣き言を漏らすと、祐司が彼女を思いやるように話し掛けた。
「留美子様、そんなにお急ぎにならず、ゆっくりなさって下さいませ」
 祐司は不意に首をもたげて、留美子の陰唇に口をつけた。その思いがけない刺激に、留美子は
「ひっ」
と短い声を出し、出なかった尿が陰唇から噴き出した。黄色い奔流が、祐司の開いた口に注ぎ込まれた。留美子は、男に尿を飲ませるという初めての体験に、排尿しながら強いエクスタシーを感じて、切なげな吐息を漏らした。
祐司は一滴もこぼすまいと、口を限界まで大きく開けて、留美子の排尿を受け止めた。しかし祐司にとっても初めての飲尿で、想像以上にアンモニア臭がきつく、喉につっかえて咽せてしまい、半分以上もこぼしてしまった。それでも彼は、必死に留美子の尿を飲み下そうとしていた。
留美子が排尿を終えると、祐司は、
「留美子様、私をビデにお使い下さいませ」
と言って首をもたげ、舌を伸ばして、尿で濡れた留美子の陰唇を舐め始めた。祐司の舌使いに感じながら、彼の哀れな姿を見下している留美子は、残忍などす黒い欲望が湧き上がってくるのを感じていた。それは、祐司をもっと虐めて、もっと苦しめたいというものだった。
「…お前は、私のおしっこを飲んだのよ。お前はもう、私の夫どころか、人間を止めて最低の便器になったのよ。お前の口は、汚れているわ。そんな汚れた口では、私にキスなんて、とても出来ないわよね…お前の口が私の身体に触れられるところは、下の口だけよ。おしっこの後始末だけじゃなく、大きい方を済ませた後の、褐色に汚れた肛門も舐めさせて、きれいにさせてやるからね…楽しみにしておいで、男奴隷!」
 留美子の陰部を懸命に舐めながら、彼女から酷く侮蔑された祐司は被虐の喜びにぞくぞくし、先程放出したにも関わらず、股間のものを射精寸前まで硬く屹立させていた。


 午後になり、祐司は都内のアダルトショップを廻って、各種の鞭と色々なSM用品を買い漁った。留美子は、祐司のリクエストに応えるため、デパートに行って、派手な原色で扇情的な下着を数点と、膝まである黒革のハイヒールブーツを購入した。
 二人は、それぞれの買い物から戻って来ると、寝室の荷物を他の部屋に移して、祐司を吊すためのぶら下がり健康器を持ち込み、ベッドは折り畳んで壁に収納して、SMプレイが出来る空間を作った。
祐司は、買って来た鞭やSM用品を部屋に並べた。留美子には使い方が分からない道具が数点あったので、祐司が使用法を詳しく説明すると、彼女は目を輝かせて、興味深そうに聞き入った。
 留美子は、一旦服を全て脱いで全裸になると、デパートで購入した扇情的な下着…全て黒に統一した薄手のブラジャーにパンティ、ガーターベルトで吊された網タイツ…いわゆるオールインワンを身に着けた。そして、膝まである黒革のハイヒールブーツを履くと、留美子は気分が盛り上がった。更に祐司が買って来たバタフライマスクを着けて顔を隠すと、何だか自分が別人になったような気がして、もっと大胆に振る舞え、祐司を激しく虐める事が出来るように思えて、興奮が高まった。
 奴隷の首輪を着けただけの全裸になって、フローリングの床に正座し、留美子の姿を見上げた祐司は、興奮すると同時に、感激で夢が一杯になった。何しろ、今まで口に出せなかった自分の恥ずかしい願望が叶って、妻の留美子が女王様になってくれたのだ。また、グラマーでスタイルのいい留美子は、ドミナファッションが実に似合って、サマになっていた。
 興奮して股間のものを猛々しく屹立させた祐司は、留美子の足元に跪き、黒光りする本革の一本鞭を、両手でうやうやしく差し出した。
「留美子様、この卑しく罪深い男奴隷を、存分に罰して下さいませ」
 留美子が一本鞭を手にすると、祐司は直ぐに這いつくばって、ハイヒールブーツの爪先に何度もキスをした。懸命にキスしている祐司を見下した留美子は、一本鞭を持った右手を振り上げると、彼の背中を手加減無しに鞭打った。
「うぎゃあっ」
 革ベルトとは比較にならない、真っ赤に焼けたワイヤーロープを叩き付けられた様な激痛と衝撃に、祐司は絶叫を上げ、跳ね上がるように上半身を起こして、背を仰け反らせた。
 留美子は左手で祐司の髪を掴み、引っ張って彼の顔を上に向かせると、厳しく叱りつけた。
「誰がブーツにキスしていいと言ったの!お前は便器になって、私のおしっこを飲んだのを、もう忘れたのかい!?お前の口は汚れているのよ。その汚らわしい口をつけて、ブーツを汚すんじゃないわよ…ええいっ、口をお開け、男奴隷!」
 祐司が背中の痛みに顔を歪めながらも、口を大きく開けると、留美子はカーッ、ペッと派手な音を立てて、彼の口に痰を吐き出した。彼女のぬるりとした痰の感触を味わった祐司は、痰壺にされた屈辱で被虐の喜びを強く感じ、鞭打ちの激痛で萎えてしまった股間のものを、再び硬く屹立させた。
 留美子は、祐司の髪を掴んだ左手を放すと、彼の顔をブーツで蹴り飛ばした。祐司は呻き声を上げて、床に横倒しになった。留美子は、横になった祐司を更に鞭打って、悲鳴を上げさせると、きつい声で命令した。
「男奴隷、ぼやぼやしてないで、四つん這いにおなり!今から、お前を馬に使ってやるからね」
 祐司が慌てて、鞭打たれて引きつる体を無理に動かし、四つん這いになると、留美子は一本鞭を乗馬鞭に持ち替えて、彼の背中にどっかりと跨った。
 留美子は、左手で手綱代わりに祐司の首輪を掴み、乗馬鞭を持った右手を振って、彼の尻をピシリと打ち据え、命じた。
「さあ、とっととお廻り!」
 祐司は喉を圧迫され、息苦しく感じながらも、よたよたと這い廻り始めた。
「ウフフ、お前は自分の妻から家畜扱いされ、馬に使われているのよ…どんな気分かしら?口惜しくない?惨めじゃない?でも、変態マゾのお前は、凄く感じて、気持ちいいんでしょう…お前みたいな最低の変態が、思い上がって私と結婚した罰に、もっともっと虐めて痛めつけてやるからね。楽しみにしといで!」
 留美子は、乗馬鞭で祐司の尻を何度も強く叩き、速く這い進むように促した。祐司は尻を鞭打たれる痛みと、留美子からの酷い侮蔑で、強い屈辱を感じると同時に、被虐の喜びが全身を駆け抜けた。
 留美子を背にして部屋を懸命に這い廻りながら、喉の苦しさと膝の痛みを強く感じた祐司は、明日もう一度アダルトショップに行って、人間馬用の手綱付きのハミと膝パット、それに留美子のブーツに付ける拍車を買って来ようと考えていた。
 部屋を何周か廻ると、膝の痛みに耐えかねた祐司は、床に突っ伏して潰れてしまった。祐司の背中から立ち上がった留美子は、怒気を露わにして、突っ伏している祐司の尻に、何度も強く乗馬鞭を振り下ろした。
「何を勝手に休んでいるのよ!私を転げ落とそうとでもしたのかい!絶対に許さないわよ!」
「ひいっ、ひいぃっ、お許しを、どうか御慈悲を…」
 留美子は、泣き声で必死に許しを請う祐司の頭を、ハイヒールブーツでグリグリと踏みにじり、酷く罵倒した。
「この程度でへたばるなんて…お前は、馬にもなれない役立たずなんだね。これでよく私の奴隷になりたいだなんて、言えたものね!お前みたいな役立たずの奴隷は、徹底的に調教して、性根を叩き直してやるわ!さっさと、四つん這いの姿勢にお戻り!」
「はい…留美子様」
 留美子に命じられた祐司は、脅えた素振りを見せながらも、内心は被虐の期待で胸を一杯にして、よろよろと四つん這いになった。祐司は、再び背中に跨られるかと思ったのだが、留美子は先が丸い玉になっている紐付きのアナルフックを持って来た。彼女はアナルフックの先にワセリンを塗ると、情け容赦無く、祐司の肛門に突っ込んだ。
「あひぃいっ」
 肛門に異物を挿入された異様な感覚に、祐司の口から情けない悲鳴が漏れた。留美子は、アナルフックの紐を引っ張り、彼に命令した。
「馬の役には立たなくても、犬の散歩くらいは出来るでしょう…さっさとお廻り!」
 留美子は乗馬鞭を片手に、紐を引っ張りながら早足で部屋を廻り、肛門を掻き回されそうになった祐司は、慌てて彼女の後をついて這い進んだ。
「ほら、ちゃんとついて来なさい!」
 留美子は、時々紐をピンピンと引っ張ったり、振り返って乗馬鞭で祐司の背中を打ったりして、彼を辱めた。犬扱いされるのなら、首輪に紐を付けて引っ張ってくれる方が、遥かにマシだった。しかし、この凌辱で祐司の被虐感は昂り、前立腺を刺激されている事もあって、彼の股間のものは猛々しく屹立していた。
 留美子は部屋を何周か廻ると、祐司にチンチンするように命じた。祐司が命令通りに犬のチンチンの格好をすると、留美子は乗馬鞭で彼の硬く屹立している股間のものをつついて、嘲笑った。
「ふんっ、肛門にフックを突っ込まれて、犬扱いされているのに、凄く興奮しているじゃない。普通の男なら恥ずかしくて、とても興奮出来ないわよ。おまえは、本当にマゾなんだね…最低の変態だわ!」
 祐司はあまりの恥辱に身震いし、顔を紅潮させて俯いた。しかし、彼の股間のものは、更に硬くなってしまった。留美子は蔑みきった声で、祐司に命じた。
「全然興奮が治まらないのね…男奴隷、両手を背中にお回し!」
 留美子は革手錠を手にすると、祐司を後ろ手にしっかりと拘束した。そして、アナルフックの紐を強く引っ張り上げ、
「ぼやぼやしてないで、きりきりお立ち!変態マゾの男奴隷め!」
と命令した。肛門を引っ張り上げられた祐司は、慌てて立ち上がった。
留美子は紐を引っ張って、祐司をぶら下がり健康器の所まで連れて行くと、アナルフックの紐を高い位置のバーに跨らせて引っ張り、紐の端を他のパイプに結び付け、彼をアナルフックで吊す格好にした。祐司の両足は床に着いているが、後ろ手に拘束され、肛門をアナルフックで吊されている彼は、全く自由が利かなかった。まだ、両手で吊される方が、遥かに楽だった。
留美子は残忍な笑みを浮かべて、祐司に告げた。
「お前は中学生の時に、男が吊されて性器を弄ばれ、鞭打たれて泣きながら射精する場面を描写した小説を読んで、凄く興奮して射精したんでしょう…望みを叶えてあげるわ」
 留美子は、右手で祐司の硬く屹立したものを握って、ゆっくりしごき始め、左手で陰嚢を包んで、優しく揉みほぐした。祐司の口から、切なそうなため息が漏れた。
 しばらく祐司のものをしごいていた留美子は、しゃがんで彼のものを口に含んだ。留美子は陰嚢を揉みほぐしながら、唇と舌をフルに使って、祐司の硬く屹立しているものを愛撫した。
「ああっ、留美子様、果ててしまいます…お許しを…どうか、御慈悲を…」
 留美子は一旦祐司のものから口を離すと、彼の泣きそうな哀願を鼻で笑い、きつい口調で注意した。
「男奴隷、言っておくけど、勝手に漏らして私の口を汚しでもしたら、ここを噛みちぎって、睾丸を握り潰してやるからね!絶対に、漏らすんじゃないよ!」
 留美子はそう言うと、再び祐司のものをくわえ、唇と舌を使って、彼を悶えさせた。しばらくして、祐司が体を震わせ、射精する一歩手前になったところで、彼女はようやく口を離した。
 留美子はブラジャーを外し、パンティを脱ぐと、脱いだパンティを祐司の口に突っ込み、ブラジャーを彼の顔に巻いて結び、猿ぐつわの代わりにした。留美子の興奮した淫液で濡れたパンティを口に押し込まれた祐司は、彼女の饐えたような臭いが口と鼻に充満し、それだけで射精しそうになってしまった。
 留美子は九尾鞭を手にすると、吊されている祐司の前に立ちはだかった。
「さあ、お前が昔読んだ小説通りにしてあげるわ…感謝おし!」
 留美子は九尾鞭を振り上げると、思い切り祐司の限界まで硬く屹立したものを、情け容赦なく思い切り打ち据えた。祐司は体を痙攣させ、パンティを詰め込まれた口から、くぐもった悲鳴が漏れた。留美子は何のためらいもなく、豊かな乳房を揺らして、再び祐司の屹立したものを打ち、彼を苦しめて身震いさせた。
もう一打ちすれば、祐司は射精していただろう。しかし、留美子は九尾鞭を床に放り、彼に近づいた。
「男奴隷、鞭で射精するのは、許さないわ!お前の精液は全て、私に捧げるのよ…子供を作るためにね!」
 留美子は、興奮して赤く充血し、ぬめってめくれている自分の陰唇に、祐司の猛々しく屹立しているものの先端を当てがうと、腰を押し付け、一気に挿入させた。留美子は、両腕で祐司の吊された体を抱き締め、腰を激しく動かした。子宮も下半身も全てとろけそうな強烈な快感に、留美子の口から大きな喘ぎ声が発せられた。祐司の口からも、くぐもった喘ぎ声が漏れた。
 祐司の目から、涙がこぼれていた。それは、留美子が自分の子供を本当に欲しがっている、彼女の深い真実の愛を感じた、感激の涙だった。
二人が大きな声を出して果てるのに、それ程時間は掛からなかった。


 絶頂を迎えた留美子は、吊されている祐司の体をしばらく抱き締め、余韻を味わっていた。それから、祐司の体から離れた留美子は、ぶら下がり健康器のパイプに結び付けていたアナルフックの紐を解き、彼の体を床に下ろした。精も根も尽き果てた祐司は、床に丸まって横になり、ぐったりとしていた。
 留美子は、祐司の肛門からアナルフックを引き抜くと、ペニスバンドを手にして、自分の腰に装着した。そして、祐司の顔に巻き付いているブラジャーを外し、彼の口からパンティを引っ張り出した留美子は、彼の髪を掴んで引き上げ、力強い往復ビンタを浴びせた。
「ひいぃっ」
 情けない悲鳴を漏らした祐司に、留美子は怒鳴り付けた。
「何を勝手に休んでいるのよ!誰が休憩していいと言ったの!?さっさと跪くのよ、変態マゾ!」
 祐司は、革手錠で後ろ手に拘束されたままの、不自由な体をのろのろと動かし、立ち上がった留美子の足元に跪いた。留美子は両手で祐司の髪を掴み、彼の口元にペニスバンドのディルドウ先端部分を押し付けた。
「男奴隷、さっきは身の程をわきまえずに、汚らわしいものを私の体に挿入してくれたわね…そのお仕置きに、お前の肛門を犯して、苦しめてやるわ…まずは、フェラチオして、唾でぬるぬるさせておくのよ。そうしないと、お前の肛門が裂けてしまうからね…さっさとお舐め!」
 留美子は理不尽にそう言うと、腰を突き出し、ペニスバンドのディルドウ部分を、祐司の口に突っ込んだ。祐司は目を白黒させ、空嘔吐しながらも、懸命に舌を使って舐め回し、ディルドウ部分を唾で濡らした。しばらく留美子は、苦しそうにディルドウ部分をフェラチオする祐司を見下して、自分の興奮を高めていた。
「いつまで舐めているのよ!お前はホモかい、変態奴隷が!」
 留美子は不意に腰を引き、ディルドウ部分を祐司の口から引き抜くと、彼の頬を思い切り平手打ちした。短い悲鳴を上げて床に横倒しになった祐司の頭を、ハイヒールブーツで踏みにじった留美子は、きつい口調で命じた。
「男奴隷、お尻を高くお上げ!」
 留美子に命令された祐司は、後ろ手に拘束された不自由な体をもそもそ動かし、両膝を開いて立てて腰を上げ、上半身は額を床に着けて支える、屈辱的なポーズを取った。祐司の後ろに廻った留美子はしゃがんで、両手で彼の腰を掴み、ペニスバンドのディルドウ先端部分を、肛門に当てがった。
「男のくせに、女に犯される気分は如何かしら…さあ、今からお前を犯して、レイプされる惨めな気持ちを、たっぷり思い知らせてやるからね…覚悟おし!」
「ああ、そんな…お願い、許して…」
 身震いして許しを請う祐司を、留美子は嘲笑った。
「ふふん、女みたいな口調になってるわよ、この変態マゾ!」
留美子は、祐司が存命する短い間に、自分でもその存在を知らなかった、嗜虐の黒い業火を全て燃やし尽くそうと、必死になっていた。祐司も短い余命の間に、長い間秘密にして抱えていた被虐の快感を貪欲に味わい尽くし、この世の未練を全て無くしてしまおうと、必死だった。
生と死の狭間で、一度禁断の扉を開けて、独特で甘美なSMの世界に入り込んでしまった二人は、もう二度と普通の夫婦に戻れない事を、強く認識していた。
「さあ、いくわよ!」
 留美子が、ペニスバンドのディルドウ部分を祐司の肛門に挿入するため、腰を力強く押し出そうとした瞬間、リビングから電話のコール音が大きく鳴り響いた。


 留美子がペニスバンドを腰に装着していた頃、大学病院では、顔を真っ赤にして怒った医師が、新人の若い看護師を怒鳴り付けていた。
「何て事をしてくれたんだ、君は!氏名の読み方が同じだからといって、全く別の患者のカルテと検査結果のファイルを私に渡すなんて、医療従事者にあるまじきミスだ!私は、ただのごくごく軽い胃炎の患者に、病名は末期癌だと言って、余命宣告までしてしまったんだぞ。この病院の医療体制に対する信用失墜行為も甚だしい!君への処分は免れないものと、覚悟したまえ…ええいっ、君の話は後だ!先に、間違えて癌宣告してしまった患者へ早急に連絡し、病名の訂正をして、謝罪しなければ…さっさと、その患者の連絡先を教えたまえ!」
「…はい、こちらになります」
 こっぴどく叱責された若い看護師は、今にも泣き出しそうな顔で、祐司の電話番号を書いたメモを医師に手渡した。

                         終わり