マゾヒズムに関する文献はいつの頃から出現したのだろうか?戦前、もしくはそれよりももっと古い歴史的な書物の中にもそれらしい記述はなくもないのでしょうが(歴史的な人物がSやMだと推測されていたりもするので)はっきりとしたものではありません。文献としては昭和の初期に「変態・資料」「変態黄表紙」「猟奇画報」などの雑誌がありますが中身を見たことがないのでマゾヒズムの文献が掲載されているのかどうかは分かりません。もし興味のある方がいらっしゃったら股旅堂 様のサイトで手に入ります。
やはり始まりは戦後のカストリ誌からではないでしょうか?(カストリというのは混ぜ物の多い粗悪な酒という語源だそうです)
1950年以前の書籍・・猟奇・実話ロマンス・風流好色夜話・好色世界・愛憎地獄絵巻・獵奇讀物・オール獵奇・獵奇倶樂部・青春タイムス・オール獵奇・性文化・性苑・雄と雌など数多い雑誌があったそうです。(それにしても猟奇という名のついたものが多いです)

この中からいわゆるSM物が登場しそして専門誌への創刊につながったのではないでしょうか?さすがに文章などは資料がないためわかりませんが女性支配の記述があったのは確かなようです。
手に入れて調べてみたい方は北天堂書店様のページより入手が可能ですのでよろしければ・・。
そして1950年代に入り待望のSM専門誌「奇譚クラブ」が登場するまだSMと言うタイトルではなくあくまでも奇譚のところがその時代を感じさせる。
そしてこの中には数多くのマゾヒズム小説が登場した。
もちろん代表的なものはあの家畜人ヤプーですが、その著者の沼正三氏はその代表作の前にも「ネクタールを手にいれる方法」や「足舐め小説 マゾヒストの会」「人耶馬耶」「あるマゾヒストの手帖から」「再度の鞭を期待しつつ」などの実にマゾヒストには興味深い文献を載せている。

さらに芳野眉美氏や鬼山絢策氏・方金三氏・森本愛造氏・鞍良人氏そして1960年代には私が後にもっとも影響を受けた佐治麻造氏や春川ナミオ氏も登場した。実にこの頃はマゾヒスト第一期黄金時代といってもいいほどではないだろうか?(私はまだ生まれてませんでしたが)
そして今でも読みたくなるような題名の小説や手記が並んでします。読者の手記 女サジストの記録」「生活の中でのM 捧げたハイヒール「告白 サディスティンの便り」「佐川奈津子さまに捧ぐ 奴隷の賦 奴隷志願の男より」美女の平手打ちと注射を願望する男「女性崇拝十二箇条」等等
そして奇譚クラブから遅れること数年で「裏窓」さらに数年遅れで「風俗奇譚」など専門誌が登場している。
「裏窓」に関しては当初はS小説専門という感じであったが中期以降は阿麻哲郎氏・代表作「畜獣デリムソン」や水尾究氏の「ああ僕は〜シリーズ」などが登場しています。この作品には非常に興味があったのでいくつか題名を挙げさせて戴きます。
ああ、ぼくは欲する うるわしい女性の唾液を
ああ、ぼくはあなたの下僕となり 若奥様とお呼びしたい
ああ、ぼくは女ばかりの家にすみ 奴隷になって奉仕したい」
「ああ、ぼくは他人夫婦の寝室で犬よりみじめに無視されたい」
「ああ、ぼくはなめそして吸い 美しい足にはずかしめられたい
など実にマゾヒストの心を忠実に表わしている作品です。彼は廃刊後サスペンス・マガジンと名を変えてからもマゾ物をそこで発表しています。
「風俗奇譚」では「マゾッホの被虐待契約書」や「マゾヒストの美酒」「マゾヒストの手紙から」「あたしの乗馬日記」「お姫様と奴僕の一日」「あたしのカバンには鞭がはいっている」など直接的な表現のマゾ物が多かったようです。さらにこの雑誌の特徴は同性愛や女装それと海外の作品の和訳物に関して多く取り扱っていたことでしょうかやはりマゾヒストにとっては見逃せない雑誌だったのはないでしょうか?
この頃の雑誌は古本屋さんやオークションなどで手に入れる事はできますが続けて読んで見たいなどと思ったらぜひ風俗資料館を利用して下さい。有料ですがコピーサービスなどもありますので。

この頃がまでが初期と言う感じではないでしょうか?この後昭和40年半ばにはSMという冠をつけた雑誌が多数創刊されました。これは次の中期でご紹介致しましょう。
その前にこの初期の中でいくつかのマゾ作品を一文だけご紹介していきたいと思います。
題名 著者 記載雑誌
金髪の悪魔(和訳物) 曽根崎晴美 氏 風俗奇譚
男”女中”志願(和訳物) 緑川奈緒美 氏 風俗奇譚
レターM 谷 寛太 氏  風俗奇譚
宇宙のどこかで 佐治麻造 氏 奇譚クラブ
奴隷哀歓 獅子鼻明 氏 奇譚クラブ