中編
夫のあまりにも恥ずかしい姿を前にして私は一瞬彼に哀れみさえ感じたがそれもすぐさま軽蔑へと変わった。
ステージ上で何度も頭を下げる彼に対して会場から2人の手が上がった。
いずれも絵梨と同じような30代前後の女性達でこのサロンの客だった。するとステージからは檻が移動されベンチのような物が用意された・・もちろんその女性達が座るものである。
二人ともここで着替えたのだろうか、かなり派手目な洋服に一人は膝まであるロングブーツをもう一人はガーターストッキングにヒールの高いサンダルを履いていた。
彼女達がそのベンチに腰掛けると全頭式マスクの男・・つまり絵梨の夫である文也にほぼ間違いない男がその足下に平伏した。
「ああ・・女御主人様、ありがとうございます・・ありがとうございます」
「ふふ。恥知らずな変態犬なんでしょう?どんな恥ずかしい事でもするわよねぇ?
「は、はい・・・女御主人様」
「じゃあ、まず挨拶代わりに私達の靴底でも舐めてもらおうかしら?」
「あら、いいわね。でもこいつの方からお願いさせましょうよ。ほらお言い!」
「はい・・女御主人様。どうかこの恥知らずな変態犬に靴底を舐めさせて下さいませ」
そう言って男は土下座をした。
その頭をブーツの女性が踏みにじる・・・
「ふふ・・いいわよ。その代わりピカピカになるまで磨かせるからね。ほら!」
首輪の鎖をグイと引き上げる・・その鎖の上にブーツの足を乗せて靴底を舐めさせたのだ。一心不乱にその靴底を舐め上げる男の姿を見た私は猛烈な嫌悪感と憎しみを彼に抱いたのだった。
なぜなら、こうして女の靴底を舐めている口と毎朝キスをしていたかと思うと気分が悪くなる思いだった。
二人の女に弄ばれながら必死にその靴底を舐める男・・・顔を蹴り飛ばされ頭を踏みつけられても彼は靴底の舐め仕事をやめなかった。
私は急に足の下にいるミツルの事を思い出した。見ると彼の胸やお腹にはくっきりと自分のヒール痕が付いていた。気が付かないうちにかなり強く踏みしめてしまったようだ。
「ねえ、貴方もあんな風に靴の底舐める事があるの?」
トロンとした目をしているミツルの顔を見下ろして尋ねた。
「はい、女御主人様の靴底を舐めるのは隷従の証しでもあるんです。貴女様にお仕えしますという奴隷からのメッセージのようなものですから」
「そ、そうなんだ・・」 
「あ、あの・・よろしければこのまま顔を踏みつけて戴ければ靴底をお舐め致します」
「あ、いいわ・・私は・・」
「お願いです・・女御主人様」
彼の訴えるような真剣な目に少したじろいで私はうなずいてしまった。彼が体を移動し丁度顔の辺りが私の足の真下に位置した。私はそっと彼の顔の上にハイヒールを乗せた。
すると右足のハイヒールの下で彼の舌が動いている・・・・あ・舐めてる・・・そう思った瞬間何か体が火照ったようだった。
ステージでは男が彼女達に鞭打たれ始めていた。男はじっとして動かない事を命じられていたが彼女達の意地悪な鞭さばきに悲鳴を上げていた。
「ビシッ、ビシッ!」
「あ・・あうっ」
「ほら、これはどう?バシッ、バシッ!」
「ああ、ひぃ〜」
「ほら、変態犬、虐めて欲しいんだろう?バシッ!」
「ひぃ〜・・・・・」
「動くなっていったでしょう。バカ犬!」
「ぎゃぁ〜」
いつの間にか男の体は鞭痕で真っ赤になり、ところどころ紫に変色し始めていた。その姿を見ていた私は彼をかわいそうと思う心などまるでなく、憎しみから自分も彼を鞭打ちたいという欲望さえ生まれてきていた。
そして足下にいるミツルに左足の靴底を舐めさせている時に急にムラムラきて、右足のヒールで彼の乳首を踏みにじった。急に生じた欲望に自分でもびっくりしたが彼の苦痛に呻く姿を見てますます強く踏みつけたのだった。
その時、私は体に熱いものが流れたのを感じた・・・・・・あ、濡れた・・・・私の秘部は間違いなく濡れていたのだ。
私はそっとトイレに行き、処理をすると急いで戻ってミツルに帰る事を伝え、その店を出た。あまりにもいろいろな事が起きて整理がつかなかったのと、自分に起きた変化に戸惑っていたのだった。
帰路の最中も体が火照ってしょうがなかった。家に帰り落ち着くとようやくこれからの事を考える事ができた。、彼はあの後も痴態をさらしていたに違いない。そして何食わぬ顔で戻って来るのだろう。
どう、対応しよう・・問い詰めて白状させようか・・・・それとも離婚・・・それも頭に過ぎったが、結局もう少し様子を見て判断しようと自分に言い聞かせた。その夜も何事もなかったように彼の帰りを迎えた。
「お帰りなさい。あなた」
「ああ。ただいま」
「お風呂?背中流してあげましょうか?」
私はわざとそう尋ねた。もちろん彼が拒むのは間違いない・・・彼の体は鞭痕だらけのはずだから・・
「いや、いいよ。先に寝ててくれないか」
「うん、じゃあそうするわ」
何気ない会話中に私は彼の顔を思い切り引っ叩きたい気持ちになっていた。心の中で・・あんあな恥知らずな変態のくせに・・・と叫んでいたのだった。
そしていつもと変わりない日を過ごす毎日・・変わったのは毎朝のキスを私がやめると言った事ぐらいだった。彼は少し心配そうに私を見たが笑顔で送り出したので問題はなかった。どうしてもあの口とキスする気持ちにはなれなかったのだ。
私はインターネットでマゾ男の事やSM関係の事を毎日のように調べ上げ通販で道具やウェアなども買い揃えた。一度彼に近づいてみてからでも遅くはないと思ったのと、自らの興味からでもあった。
次の水曜日の明日と迫った火曜日、私は例のサロン「女神」に電話をした。電話に出たのはあのミストレス真紅だったので先週の事を話すとすぐにわかってくれたのだった。
「あの、実は明日また伺いたいんですが・・」
「ええ、もちろん大歓迎よ。この間のミツルなんか、今度はいついらっしゃるんでしょうかって毎日のように私に聞くのよ・・ふふ、よっぽどお慕いしてるみたいよ・・ふふ」
「ああ・・でも私・・できたらこの前ショーに出ていた男と・・・してみたいんです。できれば二人きりで・・・」
「あら、ブタオの事かしら・・・この前のショーの奴隷よね。彼はブタオって呼ばれているベテランのマゾ男なの。きっと喜ぶは貴女のような美しいマダム・・あ、失礼、結婚してらっしゃるんでしょう?」
「ええ、まあ・・」
「じゃあ、素敵な奥様がブタオの事を指名したって言っておくわ。個室の調教部屋があるのでそこで待たせておくわ。何時ごろいらっしゃるのかしら」
「8時頃になると思います。あのそれで、顔とかは明かしたくないので例のマスクと変聴器も着けてもらいたいんです」
「分かりました。お客様の秘密は絶対守るのが当サロンのきまりですから、大丈夫よ」
「じゃあ、お願いします」
これで自分だと気付かれずに夫の体の反応を見る事ができる・・・なぜか私は不安より期待の方が大きく感じている自分に納得していた。